[ホラー短編]騙された美大生ー行った先は宗教大学でしたー
その大学のパンフレットは、眩いほどの銀箔が施されていた。「君の才能を、世界というキャンパスへ」。そのコピーを信じたのは、18歳の春だった。
父が残した遺産と、母が身を粉にして働いた貯金。合わせて800万円。
「これは投資よ」と母は笑った。私も、その重みを「未来へのチケット」だと確信していた。
しかし、入学して一ヶ月。私は最初の「違和感」を覚える。
アトリエに並ぶキャンバスはすべて、裏側が腐っていた。
×××
教授たちは「精神を研ぎ澄ませ」と言い、一切の技術を教えない。代わりに強いたのは、謎の「高額な画材」の購入だった。
「この絵具を使わなければ、真理の色は出せない」
一本数万円するチューブ。中身は、どこにでもある安物のポスターカラーの臭いがした。抗議しようとした先輩は、翌日から「存在しなかったこと」にされた。学籍名簿からも、人々の記憶からも。
気づけば、私の銀行口座は空になっていた。
800万円。それは、私の夢の対価ではなく、この大学という「怪異」を維持するための供物だったのだ。
ある夜、私は事務局の奥にある「開かずの間」に忍び込む。そこで見たのは、学生たちが描き上げた絵画ではない。壁一面に貼られた、800万円ずつの「振込証明書」だった。
それらは血のように赤いインクで塗りつぶされ、巨大なモザイク画を形作っている。描かれているのは、醜く太った「芸術の神」の姿。
背後で、冷たい声がした。
「次の色は、君の絶望に決めたよ」
振り返ると、そこには入学式の時に微笑んでいた学長の、顔のない輪郭が揺れていた。




