第15話 再会(5)
面接の日。
放課後の生徒会室には、
面接前の静かな準備の時間が流れていた。
今日、
生徒会の新規役員の面接が行われる。
一般の希望者は、
成績と書面選考を通った者のみ。
顧問推薦の特別枠は、
面接のみで判断される。
机の上には、
すでに名簿と書面が整えられている。
エリオスはそれに
一度目を通している。
だが、
確認のためもう一度めくる。
顧問が言った。
「今年の希望者は二十五名でした。
例年より多いですね」
エリオスは書類から目を上げない。
「そうですか」
「書面を通したのが十二名です」
紙の束。
家名と成績と課程。
数枚めくったところで、
エリオスは指で目頭を軽く押さえた。
ここ数日、
王太子としての実務と
生徒会の仕事が重なっている。
夜も、
あまり深く眠れていない。
一度息を落とし、
名簿へ視線を戻す。
顧問が口を開いた。
「もう一件、
私からの推薦があります」
エリオスは顔を上げる。
「確か……民政課程でしたね」
「ええ。バルディエ家の令嬢です」
その名が落ちる。
エリオスの指が、
わずかに止まる。
「バルディエ……」
つい先日、
ノアの口から聞いた名前。
王都の流通を押さえる家だ。
――王都の流通を握る家。
エリオスの思考が、
一瞬だけ計算を走らせる。
「民政……なるほど」
顧問は頷く。
「統治学課程でも
首席になる成績ですが、
公表を辞退しています」
エリオスの視線が止まる。
「……辞退?」
首席でありながら、
それを伏せる。
普通はあり得ない。
顧問は淡々と答える。
「本人の希望で。
公にしない条件です」
「試験の記述問題も確認しましたが、
設問は
『王都に物資が集まりすぎて
地方の交易が停滞している。
どう改善するか』
というものでした」
顧問は続ける。
「多くの学生は
税を下げるなどの
対処を書いていましたが――」
「彼女は、
王都に集中している流れそのものを
変える案を書いていました」
エリオスの眉が、
わずかに動く。
「しかも、
地方にも人と物が回るよう
段階的な仕組みまで
書かれていました」
「表には出てきませんが、
名のある家庭教師が
ついていたようでして」
「王都の学者の名も
いくつか出ています」
エリオスは、
わずかに頷いた。
顧問が、静かに付け加える。
「ノア殿下からも、
同じ人物の推薦がありました」
エリオスの視線が上がる。
「……聞いている」
短い沈黙。
偶然にしては重い。
顧問が続ける。
「本人も、
ぎりぎりまで迷っていたようでして」
「今朝、面接を受けると
申し出がありました」
「書面は」
「まだ私の机にあります。
整理して、面接までには持ってきます」
エリオスは名簿を閉じる。
「最終枠に」
「承知しました」
名前は、まだ手元にない。
書面も届いていない。
だが――
入学式の夜、
ノアから聞いた。
読書仲間。
バルディエ。
それだけで、
おおよその輪郭は見えた。
バルディエ商会に、
才覚のある娘。
商いの家に
政治を見る頭が加われば、
影響力は小さくない。
それに、バルディエ家は
ただの商家ではない。
侯爵家。
祖父の代までは
王宮の中枢にも
深く関わっていた家だ。
しかも、
それを表に出さず
首席すら辞退する。
目立つことを望まない人間ほど、
動くときは読みにくい。
――注意して見ておくか。
紙ではなく。
今日の最後に。
“本人”を見ればいい。




