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第15話 再会(4)

入学式から数日後。


学院の回廊。

石壁に沿って歩いていると、


「リリアナ」


声が落ちた。


振り向く。


ノアだった。


胸の奥の緊張が、

ゆっくりほどける。


それでも、


「……ノア殿下」


礼は崩さない。


ノアは並ばない。

半歩だけ、後ろ。


「生徒会、入る」


前に聞いた話を、

改めて告げる声音。


「研究棟に入れる」


それが本題だと分かる。


ノアが言う。


「あれから、王宮の書物ももう一度あたった」


短い声。


「やはり、手がかりはなかった」


少し間。


「残るのは、学院の研究棟」


「生徒会役員は、研究棟の資料整理や調査の補助に入ることがある」


「許可のいる記録にも、手が届く」


「数少ない入口だ」


少しの沈黙のあと、


「兄に推薦しておいた」


足が止まりかける。


ほんの一瞬。


「……勝手ですね」


拒絶ではない。


迷いが、にじむ。


ノアは表情を変えない。


「嫌なら断れる」


突き放さない。

理由も聞かない。

説得もしない。


ただ、

選択を返す。


王立図書館にない資料。

封印記録。

研究棟。


生徒会を通さなければ

触れられない場所。


それは、

二人とも分かっている。


沈黙。


石床に足音だけが響く。


リリアナは視線を落とす。


――分かっていた。


いずれ踏み込む。


覚悟は、

学院に入学すると決めた時からしていた。


ただ。


とっくの昔に、

手放したはずだった。


あの人の隣に立つ未来。


それはもう、

前の世界に置いてきた。


――そう思っていた。


そう思って、

入学式に来た。


けれど。


顔を見て、

声を聞いた瞬間。


一瞬だけ――


その未来を、

願ってしまった。


だから。


蓋をした。


それ以上、

考えないことにした。


それが、

ほんの数日前。


実際に足を向けるとなると、

息が浅くなる。


生徒会は、

あまりにも近い。


あの人がいる場所。


この距離で、

揺れずにいられるのか不安になる。


けれど。


研究棟には

行かなければならない。


「……顧問の先生からも、

声はかかっていました」


「うん」


「迷っていました」


ノアは何も聞かない。


ただ、

待つ。


やがて、


「入った方がいいのは、

分かっています」


逃げない言葉。


ノアは頷かない。


ただ、


「必要になる」


それだけ言う。


命令でもない。

励ましでもない。


事実だけ。


リリアナは息を一つ落とす。


――近づくしかない。


調べるために。

突き止めるために。

守るために。


顔を上げる。


「……分かりました」


静かな声。


「受けます」


ノアは短く返す。


「ああ」


それだけ。


二人はまた歩き出す。


並ばない。


距離は保ったまま。


それでも。


足音の間隔だけが、

自然に揃っていた。

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