第15話 再会(3)
入学式の夜。
王宮の一角、エリオスの部屋。
軽いノック。
「入っていい?」
先に声が来る。
エリオスは書類から顔を上げた。
「いいよ」
扉が開き、ノアが入ってくる。
式の正装はもう脱いで、
くつろいだ私服に着替えていた。
ついさっきまで、
新入生代表として壇上に立っていたとは思えない、
いつもの弟の姿だ。
エリオスはそれを見て、
少しだけ口元をゆるめる。
「進学おめでとう」
ノアは肩をすくめた。
「見てただろ」
「一応な」
「一応か」
「王太子は忙しい」
軽口が落ちる。
いつもの兄弟の空気。
ノアは机の前まで来て、
軽く壁にもたれる。
「話がある」
エリオスはペンを置いた。
弟の方を見る姿勢になる。
「聞こう」
ノアが言う。
「俺、生徒会入ることにした」
エリオスの眉がわずかに上がる。
「……今さら?」
「今さら」
エリオスが少しだけ笑う。
「いいんじゃないか。
お前向きだ」
ノアは肩をすくめる。
「あと、
一人推薦したい」
エリオスの視線が動く。
「誰だ」
「読書仲間」
「ああ、前に言ってた」
エリオスは
弟の顔をまじまじと見る。
「……どんな人だ?」
探るでもなく、
興味を向ける声。
ノアは視線を少し外す。
「頭がいい」
「それだけ?」
「それだけ」
エリオスは、半ば確信した声で言う。
「……女性?」
ノアは答えない。
沈黙が、
そのまま答えになる。
エリオスはわずかに眉を上げる。
「珍しいな」
からかい半分の声。
「どこの令嬢?」
「バルディエ家」
「ああ。バルディエか」
エリオスの目が、わずかに細くなる。
王都の流通を握る商会。
その名はことあるごとに耳にする。
「跡取りは同じ学院にいた。
俺が一年の頃の三年だ」
――バルディエ商会、か。
考えが一瞬だけよぎる。
だが、それ以上は口にしない。
視線をノアへ戻す。
エリオスは、少しにやりとする。
「たぶらかされてない、だろうな?」
ノアは鼻で笑う。
「誰が」
「一応な」
空気は軽い。
でもエリオスの頭の中では、
別の計算も同時に動いていた。
家名。
立場。
学園内での位置。
すべて一瞬で整理される。
エリオスは短く言う。
「顧問に伝えておいてくれ」
ノアは頷く。
「分かった」
それだけ言って、
壁から離れる。
「以上?」
「以上」
ノアはそのまま扉へ向かう。
開きかけて、
少しだけ振り返る。
「……いいと思うよ」
珍しく、
感情の温度が乗った声。
エリオスは小さく頷く。
「そうか」
兄の顔のまま。
ノアが出て行く。
扉が閉まる。
静けさ。
エリオスは、
ふと机に肘をつく。
「バルディエ、か」
小さく呟く。
ノアが誰かを推す。
それだけで、
少し嬉しい。
同時に――
どんな人間なのか、
興味も残る。
書類に手を戻す。
だが。
ペンは、
すぐには動かなかった。




