第14話 進路(5)
願書は、翌朝出した。
封を閉じたとき、
指先は思ったより静かだった。
迷いは、決意の中に置いた。
その夜。
叔父の書斎に呼ばれる。
重い扉が閉まる。
帳面の頁をめくる音だけがある。
叔父は目を上げずに言った。
「高等部は課程が分かれる」
唐突に。
「統治、法、財政、民政、軍略」
書斎の空気が、わずかに止まる。
「民政を選ぶ気か」
頁を止める。
「徴税、物流、人口、価格、労働。
――国の腹を扱う課程だ」
問いではない。
リリアナは頷く。
「国は理念では回らん」
低い声。
「流れで回る」
「人と物と、金の流れだ」
机の端に積まれた資料を、指が押さえる。
「アルヴェイン公爵家の鉄路計画」
淡々と。
叔父は頁を一枚めくる。
「婚約が前倒しされたのは知っているな」
確認。
リリアナは静かに頷く。
本来は卒業後でもよかった。
だが、事業の承認と資金の動きを早める必要が出た。
王家の名が付けば、
周囲は動く。
「名は、加速させる」
静かな断定。
「その分、綻びは見えにくくなる」
そこでようやく、
叔父が視線を上げる。
「来週は慌ただしくなる」
短い。
「神殿関係、贈答、各家との調整。
表には出ない段取りが増える」
商会はすでに動き始めている。
叔父は「手伝え」とは言わない。
ただ、書類を横へ寄せる。
「目は通しておけ」
それだけ。
命令でもなく、
拒絶でもない。
リリアナは自然に、その書類を受け取る。
叔父は帳面を閉じる。
「学園へ行っても、流れを見ろ」
視線が重なる。
「表だけを見るな」
それだけだった。
その夜から、
帳場の灯りが消えるのは、少し遅くなった。




