第14話 進路(4)
商会を後にし、
家に戻る。
自室の扉を閉める。
灯りを点す。
静寂が落ちる。
ふと、胸の奥が引き寄せられる。
忘れるはずがない。
エリオスと並んだ、生徒会室の時間を。
長机。
夜まで消えない灯り。
積み上がる書類。
会長席に座る横顔。
責任を背負った顔。
誰よりも早く決断し、
誰よりも遅く席を立つ人。
役目をひとつずつ拾い上げ、
自分の肩に載せていく。
そして、何も言わない。
少しでいいから、
その重さを分けてほしかった。
できるなら、
全部引き受けてしまいたかった。
理屈ではない。
あの人を、支えたかった。
けれど。
今回は、その役目は
私でなくてもいい。
ノアがいる。
サラもいる。
あの人を支えてくれる人は、
他にもいる。
机の引き出しを開ける。
綴じ紐のついた紙束を取り出す。
端は少し擦り切れ、
指の跡が残っている。
頁をめくる。
日付の横に、
小さな印をつける癖がある。
危険だった日には、必ず。
誕生祭の襲撃。
落馬しかけた日。
式典の装飾の緩み。
刃の不備。
薬の重なり。
ほんの僅かに、
何かがずれていれば
取り返しがつかなかった出来事。
私が見たこと。
覚えていること。
エリオスは、いつも
危ういところに立っていた。
偶然にしては、重なりすぎている。
覚えている記憶を辿りながら記し、
噂を拾い、
証言を照らし合わせ、
流れを読む。
人を替え、
順を変え、
手配を早める。
遠くからでも、防いできた。
近づかないと決めてきた。
――自分が不吉だと、
分かっているから。
この見た目が、不幸を呼ぶと。
母を死なせたと、
言われ続けてきた。
ゆっくりと、鏡の前に立つ。
目を逸らさず、
自分を見る。
忌むように囁かれてきた色。
けれど。
あの人は、
この色ごと
私を受け止めてくれた。
不吉だとは、
一度も言わなかった。
もし私が近くにいることで、
何かを呼び寄せているのなら。
離れている方がいい。
――そう思ってきた。
それでも。
第一王子にだけ、
繰り返される流れがあるのなら。
頁の端に視線を落とす。
学院。
あの場所でも、
いくつかの兆しはあった。
小さな綻び。
些細な違和感。
あとから思えば、繋がる出来事。
あのとき、私は隣にいた。
それでも、
すべては止めきれなかった。
知らなかったから。
見えていなかったから。
足りなかったのは、
距離ではなく、理解だ。
今度は。
何が始まりで、
何が積み重なって、
あの結末に辿り着くのか。
それを、知る。
遠くからでは足りない。
エリオスを、生かす。
そのために。
私は、
近づく。




