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第14話 進路(3)

商会の執務室に呼ばれたとき、

リリアナはわずかに息を整えた。


レオンがいる。

そして、叔父も。


扉が閉まる。


静かな空間。


先に口を開いたのは、レオンだった。


「学院、まだ迷ってるのか?」


軽い声。


「願書の締切、明後日だぞ」


机に腰を預ける。


「中等部は、かたくなに行かなかったよな。

家庭教師で専門を深くやれたのは、お前には合ってた」


肩をすくめる。


「でも高等部は別だ。

あそこは“縁”を作る場所だ」


レオンは視線を少し上げる。


「俺も商会回しながら去年卒業したけど、

あそこで出来た繋がりは今も生きてる。

侯爵家としても、無視できない縁だ。

顔を知ってるだけで、通る話がある」


視線が真面目になる。


「商会はもう回ってる。

お前が触った分も、ちゃんと回ってる」


遠回しではない。


「だから奥に籠ってないで、外に出ろ」


冗談の口調。


「何をそんなに躊躇ってる」


責めてはいない。

背を押す声だった。


沈黙。


リリアナは視線を落とす。


近づいていいのか。

あの場所に。

あの人の近くに。


答えは、きっと自分の中では、わかっている。


ただ、

一歩が出ないだけだ。


叔父が、静かに口を開いた。


「図書館の特別資料閲覧室」


呼吸がわずかに止まる。


「許可を欲しいと言ったから、通した」


それだけ。


「時間を割いて通うことも、黙っておいた」


問い詰めない。


「だが」


声は低い。


「学院へ行く年だ」


現実を置く。


「貴族として立つ場所を持て」


短い。


「外で見えることもある。

だが、近くでなければ出来んこともある」


それ以上は言わない。


誰のことかも。

何のことかも。


沈黙が落ちる。


「またその顔」


レオンが笑う。


銀の丸い缶が、ひょいと投げられる。


軽い音。


「どうせ、もう決めてるんだろ?」


軽い。

けれど真剣だった。


叔父は何も足さない。


ただ、視線を向ける。


道は示した。

選ぶのはお前だ、という目。


リリアナは、反射的にそれを受け止める。


冷たい。

確かな重み。


迷いは消えていない。


けれど。


足は、もう止まっていなかった。


逃げるためではない。


立つために。


学院へ。


近づかないと決めた場所へ。


それでも、


目を逸らさないために。

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