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第13話 協働(3)

特別資料閲覧室へ足を運ぶことは、

いつの間にか習慣になっていた。


協働が始まってから、

調べ物は自然とここへ集まるようになった。


扱う資料の深さも、

照合の精度も、

この場所でなければ追いつかない。


二人が見ているのは、

一般書架には出ない記録だった。


王宮内で編まれた歴史、

研究者が残した王家史、

代替わり前後の出来事を集めた写本。


さらに、同時期に起きた流行病や事故、

近臣の記録や地方編年史まで。


近代から遡り、

王宮で何が起きてきたのか。


その線だけを追っていた。


約束をしたわけでもない。

時間を決めているわけでもない。


それでも、

扉を開ければ、どちらかがいる。


視線が合う。

それだけで足りた。


席に着けば迷わない。

資料の置き方も、

照合の順も、

もう身体が覚えている。


「リリアナ」


声変わりを終えたばかりの、

少し低くなった声。


いつのまにか、

そう呼ばれるようになっていた。


敬称が落ちたのは、

いつだったか。


どちらも触れない。

触れないことが、

いちばん自然だった。


ノアの思考は速い。

視点が高く、

読みが深い。


年号の揺れ、

記録の欠落、

筆致の変化。


数字を追いながら、

その裏まで掬い上げる。


紙をめくる指が止まる。


「この編年史、途中で流れが変わる」


リリアナが顔を上げる。


ノアは頁の途中を指で押さえた。


「ここまでは、出来事が順に積み重なっている」


少し先を示す。


「ここから先は、結果だけが並ぶ」


リリアナは別の頁をめくる。


「語り方も変わっていますね」


「出来事を追う書き方じゃない」


一拍。


「まとめ直した記録に近い」


ノアが小さく頷く。


「元の記述を、後から構成し直した形だ」


言葉はそこで切れる。


リリアナが続ける。


「……後世の手が入っていますね」


「削ったのか、補ったのかは分かりませんが」


視線が合う。


説明は要らなかった。

同じところに気づいたと、それだけで分かる。


沈黙のまま、

それぞれ別の資料へ手を伸ばす。


頁をめくる速さが揃う。

置く位置も自然と噛み合う。


同じ線を辿っていると分かると、

余計な言葉はいらなかった。


やがて一冊を閉じる。


紙の擦れる音が、

区切りを告げる。


ノアがふと顔を上げた。


思い出したように、


「……『夜鐘館の記録』、続きは読んだか」


最近、続巻が出た推理小説の話。

小さな余白のような会話だった。


「……まだです」


「まだ?」


ノアが言う。


「犯人は――」


「言わないでください」


即答。


ノアの口元が、

わずかに緩む。


「前巻で推理は済んでいるだろう」


一拍。


「教えようか?」


リリアナは小さく首を振る。


「……まだ、知りたくないです」


「そう?」


「はい」


ほんの少しだけ、

ノアの口元に軽い色が乗る。


会話は、そこで終わる。



頁をめくる音が重なる。


静かな時間。


無理も、気負いもない。


ただ、

同じ思考の線を辿っている。


それが自然だった。


そして、ある日。


机の上の資料を、

リリアナがふと並べ替える。


王になる前の期間だけを、

抜き出して並べ直す。


その瞬間、

指が止まった。


――あ。


ばらばらだった記録の中に、


同じ偏りだけが、

静かに浮かび上がる。

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