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第12話 懐かしい人(1)

王立図書館の扉の前で、

リリアナは一度だけ足を止めた。


ここへ来るのは、

久しぶりだった。


調べるためだ。


王家の記録。

古い出来事。

名前の残らない事故。


あの紙束の続きが、

どこかにあるはずだ。


指先を、そっと押さえる。


外へ出るときだけ、

左手に手袋をするようになった。


あの日からだ。


薄手の、生成り色。

右は何もつけない。

左だけ。


布越しに、

そこにあるものを包むように、

静かに押さえる。


それでいい。



――エリオスを守る。



そのために、

ここへ来た。



扉を押す。


重い音。

静かな空気。


紙と、

乾いた木の匂い。



足を踏み入れた瞬間、

胸の奥が、

ほんの少しだけ揺れた。



懐かしい。



世界が巻き戻る前。


ここには、

よく来ていた。



子どもの頃は、

エリオスと、

その弟のノアと三人で野原を走り、

王宮の中を探検していた。



けれど、

少しずつ時間が変わっていく。


エリオスと過ごす時間が増え、

それでも、

本のある場所では、

ノアと並ぶことが多かった。


二人とも、

読むことが好きだったから。



王宮の書庫。


王立図書館。



並んで座り、

同じ灯りの下で本を開く。


好きな本のことを、

ぽつりぽつりと言い合う。


競うでもなく、

急かすでもなく、


ただ、

ページをめくる音だけが続く時間。



あの空気が、

まだ残っている気がした。



視線を上げ、

書架の奥へ歩き出す。

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