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第11話 見えない介入(2)

遠乗りの話を耳にしたのは、

春の終わりだった。


王太子が、

王都近郊の森へ出るらしい。


厩の者の会話。

女中の噂。

護衛の配置の変化。


断片を拾うたび、

ひとつの予定が形になっていく。


――遠乗り。


その言葉だけで、

胸の奥が静かにざわついた。




王太子が、

乗馬に慣れた頃のことだった。


遠乗りに出た日がある。


走り出してすぐだった。


足がもつれる。

身体が傾く。

視界が反転する。


――落ちる。


その瞬間。


横から手が伸びた。


護衛の騎士が、

馬体の横へ滑り込み

エリオスの身体を抱えた。


もう少し遅ければ、

頭から硬い地面へ叩きつけられていた。


間に入った衝撃で、

騎士は地面に強く打ちつけられる。


骨は折れなかった。


血も、少ない。


けれど。


傷の治りが、

妙に遅かった。


理由のない違和だけが、

長く残った。




記憶の底に沈んでいたその光景が、

今、噂の断片と重なっていく。


――今回だ。




直接は触れられない。


名前も出せない。


王太子の愛馬に、

口を出す立場ではない。


それでも。


方法はある。




王宮に出入りしている馬医へ、

叔父の商会を通じて声をかけた。


「少し前に、

 王太子殿下の馬を見かけたのですが」


何気ない調子で言う。


「歩き方が、

 少し重そうに見えました」


事実かどうかは、

関係ない。


疑問として置くだけでいい。




馬医の表情が、

わずかに変わる。


「……そうか」


短く頷いた。




数日後。


厩の空気が、

静かに動く。


愛馬が、

念のため診られることになった。


大事ではない。


けれど、

内側に疲労が溜まっている。


無理をさせれば、

足を踏み外す可能性がある。


そう判断された。




遠乗りには、

別の馬が選ばれる。


自然な流れだった。


愛馬は、

休養に回される。


それだけのこと。




遠乗り当日。


空は高く、

風は穏やかで。


予定通り隊列は進み、

森へ入り、

戻ってくる。


誰も落ちない。


誰も怪我をしない。


笑い声だけが残る。


ただの遠乗りとして、

終わった。




帰り道。


噂を拾う。


「王太子殿下の馬、

 少し休ませるらしい」


それだけ。


予定は、

最初からそうだったみたいに、

書き換わっている。




本来起きるはずだった出来事は、

形を持たないまま消えた。




近づかない。


名前も出さない。


それでも。


確かに、

守れている。

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