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第11話 見えない介入(1)

ある日。


商会の帳簿を写していたときだった。


背後から、

声が落ちる。


「何してる」


振り返ると、

レオンが立っていた。


まだ少年の輪郭を残した顔。

けれど、

視線だけが、

大人のそれだった。


「写しです」


「ふーん」


それだけ言って、

隣に立つ。


しばらくして。


リリアナの手が、

止まった。


「……この町、

 来月、値が動きます」


レオンが、

視線だけ向ける。


「理由は」


「塩が、

 急に多く売られています。


 本来なら、

 冬に備えて買い足す時期です。


 でも今は、

 同じ商家が、

 何度も手放してる」


帳簿を指でなぞる。


「倉を空けています。


 ――穀物が入らなくなる前の動きです」


レオンは、

何も言わない。


ただ、

続きを待っている。


「穀物が足りなくなる町は、

 先に保存を手放します。


 食べるものが無ければ、

 塩を持っていても意味がないからです。


 売って金にして、

 穀物を買う」


一拍。


「でも、

 同じ動きが続いてる。


 つまり――


 もう、

 足りていません」


沈黙。


レオンは、

帳簿の数字を一度だけ見て言った。


「……穀、先に押さえる」


短い判断だった。


「この町の分、

 今の値で確保する。


 向こうが買いに来たとき、

 すぐ出せるように」


それから、

続ける。


「塩の売りは、

 今の値で受ける。


 買い叩かない。


 今売ってる家は、

 金が要る。


 潰れたら、

 穀が回らない」


説明しない。


けれど、

分かる。


町を助けるためじゃない。


流れを止めないための判断。


リリアナは、

頷きもしない。


ただ、

帳簿に目を戻す。


それで、

十分だった。


   *


数日後。


その町から、

穀物の買い付け依頼が入った。


例年より早く、

量も多い。


塩の値は、

本当に下がり始めた。


帳簿の通りだった。


レオンが、

帳簿を閉じながら言う。


「……見えてるな」


それだけだった。


褒めない。

驚かない。


ただ、

同じ場所から流れを見ている者の声だった。


リリアナは、

何も言わない。


ただ、

帳簿に視線を戻す。


数字の並びは、

物の記録じゃない。


生活の動きで、

人の選択で、

町の呼吸で、

形が変わる。


――遠くにいても、分かる。


その感覚は、

もう偶然じゃなかった。


使える。


そう、

自分で分かってしまった瞬間だった。

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