プロローグ
「……あなたは本当に、それでいいの?」
長い沈黙のあと、魔女は静かに問いかけた。
眉根を寄せ、翠玉の瞳を縁取る長いまつ毛が伏せられる。呆れているようにも、憂いているようにも見えるその姿さえ、美しいとカミラは思った。
(この人は私と同じ思いをしたことはないのかしら……)
否、彼女はちっぽけな人間とは一線を画す存在だ。同じ目に遭ったとて、きっとこう言ってのけるのだろう。
「些末なことよ」
先の魔女の問いにカミラはにっこりと笑ってみせる。強がりなどではない。心からそう思っている。
「魔道士さま。貴女にとってそれこそ、私やあの子の未来など、些末なことなのでしょう?」
「そうかもしれないわね…」
選択の魔女と呼ばれるこの美しい女性は、神話の時代から生きていると聞く。何千もの願いを見て、何度も世界の変わる景色を眺めてきたのだろう。
(そんな人にとって私のような人間は、きっととても、愚かに見えているんでしょうね)
愚かだと自分でも分かっている。
──それでも、譲れない願いがカミラにはあった。
「あなたの願い、叶えましょう。だけどそれでも、あなたが本当に望んでいることが叶うかどうかは──」
「私次第、でしょう? 分かってるわ」
神代の魔女は何でもできる。しかし、万能の神ではない。望む未来が手に入るかどうかは、願う者自身の選択が決めるのだ。
「絶対に、叶えてみせる。そのために私は、あの子の友達や恋人を奪い続けてきたんだから──」
運命の相手に出会えるまで。願いが叶うその日まで、この心が折れることは決してない。




