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いつもあなたがそばにいた〜ゆいこのトライアングルレッスンB〜

「ねぇねぇ!来週タクミが帰ってくるんだって!!」

 9月になったというのに夜でも蒸し暑いある日。いつも通り仕事帰りにユイコを迎えに塾の前へ行くと、彼女が嬉しそうにスマホを見せてきた。

 海外の遺跡発掘調査で真っ黒に日焼けしたタクミが、こちらを見て笑っている。その下には、「17日に帰るぜっ!」と一言が添えられていた。

「へぇ。今年は休みが取れたんだ。良かったじゃないか」

「うん!18日の便で戻らないとダメみたいなんだけど、私の誕生日は一緒にいられるって!嬉しい〜!」

 チクッと胸が痛む。

「そっか。それなら今年の誕生日は2人で過ごしたらどうだ?オレは別の日に祝わせてもらうよ」

「ええ〜〜。3人でいつものお店に行こうよ。ヒロシだってタクミに会うのは久しぶりでしょ?」

「ちょうど会社の同期から飲みに誘われていたし、2人の邪魔はしたくないからそっちに行くよ」

 まだ不満そうなユイコの頭に手を乗せる。

「オレのことはいいから、タクミと楽しんでこいよ」

 ユイコは照れくさそうに笑った。



「うーん。この服で行こうかな?でも、あっちのワンピースのほうがかわいいかも…」

 明後日の誕生日デートに着て行く服を選んでいたら、タクミから電話があった。

「あ、タクミ?今ねぇ……」

「悪い!帰れなくなった!!」

「え…?」

 急な仕事が入ったとか、正月には必ず帰るからとか……誕生日を指折り数えて楽しみにしていた私は、その後タクミとどんなやりとりをしたのか覚えていない。

 気づけば通話が切れていて、涙が頬を伝っていた。



「昨夜タクミから電話があった。仕事で帰れなくなったんだって?」

 塾が終わり、家の前まで送ってくれたヒロシが心配そうに私の顔を覗き込んで言った。

「言いすぎたって反省していた。あいつだってユイコの誕生日を祝いに帰りたかったと思うよ。正月には会えるし、来年の誕生日は……」

「そう…かな?」

「ユイコ?」

「ううん、なんでもない。送ってくれてありがとうね。おやすみ!」

 うまく笑えそうになかったから、ヒロシに背を向けてドアを閉めた。



 そして、9月17日がやってきた。

 昨日見たユイコの寂しそうな後ろ姿がずっと頭から離れない。

「ユイコのやつ、タクミと仲直りしたんだろうか?」

 結局オレは同僚とは飲みに行かず、毎年タクミの代わりにユイコの誕生日を祝っていた店で1人過ごしていた。

(今年はユイコがいないっていうのに、オレは何をやってんだか…)

 コーヒーカップを置いてふと窓の外に視線を移すと、目の前にユイコがいた。


「どうして……?」


 2人の声が重なる。

 ユイコは店に入ってくると、向かいの席に座った。

「どうしてヒロシがここにいるの?」

 オレは笑って言った。

「ユイコを待っていたんだよ」


「小説家になろうラジオ」の企画「ゆいこのトライアングルレッスンB」に投稿した作品です。

残念ながら不採用だったので、供養します。

楽しんでいただけたら幸いです。


ひろし推しなので将来的なハッピーエンドのつもりで書いたのですが、ラジオで話していた「バッドエンド作品」ってこれのことなのでしょうか…?

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― 新着の感想 ―
毎年タクミの代わりに誕生日を祝っていたというヒロシが切なく感じました。 でもラストはヒロシに望みがありそう。 遠距離よりも近くにいる頼れる人に心が動くことはよくあることで。 私がユイコだったら、この状…
ユイコ、無邪気にタクミを思っちゃってますね… 無邪気すぎて、読む方は心痛いです。 でも… 遠距離恋愛ってなかなかにキープが難しいと思うので この後、ヒロシに傾いて行っちゃうのでは??と 想像しちゃいま…
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