第9章「壊れ始める日常(Reboot)」
満腹学園の空気が、どこか張り詰めていた。
人気Vtuberキャットが突然、姿を消したからだ。
「……あいつ、黙って配信も止めてるってのはおかしいだろ」
ぶるべるが眉をひそめる。
つきは口をつぐんだまま、机の上のミンティアを指先で弄っていた。
「キャット先輩、こないだの廊下で“誰かに見られてる気がする”って言ってた」
にぇるこの一言に、教室が静まりかえる。
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ぽんぽこ先生が、放課後に急遽ホームルームを開いた。
「キャットについて、現在調査中です。ですが皆さん、自分や周囲の安全も考えてください」
その言葉の裏に、何かを隠しているような緊張があった。
その日の夜、Aちゃんは一人、体育館裏でぽつりと呟いた。
「……なんで、あの子がいなくなるの。りおんの隣にいるのは私でいいのに」
見上げた空は、月すらも照らしていなかった。
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数日後。
今度は、せきたてが登校してこなくなった。
「嘘でしょ……せきたて先輩まで?」
うかんむりの表情が、蒼白に染まる。
「先週、誰かにつけられてる気がすると言ってた。『ころもにだけは手を出すな』って呟いてた……」
彼が残した最後の言葉だった。
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昼休みの図書室。
あめめはひっそりと、ふー太郎に話しかける。
「……ふー太郎先輩。こんな状況でも、ぼーっとしてるなんて、ほんと鈍感ですね」
「え?」
「……なんでもないです。ああもう、くだらない。カツカレー大盛り納豆とチーズトッピングDXでも食べてきてください」
その一言に、隣で聞いていたつきが微かにビクッと反応した。
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放課後。階段裏で、ぶるべるがつきを呼び止めた。
「なぁ、お前……昼、納豆食ってた?」
「は?なんで……匂いした?」
「したから言ってる……それと、校舎裏の吸い殻……もしかして」
「っ……!」
「安心しろ、俺は言わねぇよ。……そういうとこも、俺は好きだけどな。じゃあな!」
つきは、言葉を失ったまま、ぶるべるを睨んで立ち尽くした。
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その夜。りおんは鏡を見つめていた。
「ふーくん……怖い? でもね、大丈夫……あたしが守るから。全部、消してあげる」
その声は、明らかに別人のものだった。
――そらんが、目覚めた。
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ラスト、旧放送室。
無人のモニターに、誰かが映っていた。
キャット――いや、**“もぶA”**の名前で動く彼は、黙ってすべてを記録していた。
「そろそろ……誰かに届ける時かな」