第8章:秘密のお茶会と静かな取引
【1】
「ぱんちゃんってさぁ、どうしてそんなに“みんなに好かれる”の?」
屋上。放課後。風の音だけが響く場所で、そらんは一人の少女と対峙していた。
──ぱん。
制服のボタンは一個外し、ほんわか笑顔。今日も周囲の男子たちから「癒される〜」と評判だった。
ぱんはにこにこ笑って、そらんの問いに答える。
「うーん……“好かれたい”って思ったこと、ないの。
でも、“嫌われたくない”って思ったら、いつのまにか“好きになってもらってた”んだよね♪」
そらんは少しだけ笑った。
「ふーん……なんか、ずるい」
「ずるい……って言われたの、久しぶりかも」
ぱんの目が、一瞬だけ揺れた。
でもすぐに、いつもの優しい声に戻る。
「そらんちゃんも、ずるいよ?
“りおんちゃん”の中に隠れてたのに、今は主役みたいな顔してる」
「……やだ、バレてる♡」
【2】
ぱんとそらん。
“ふわふわ”דふわふわ”の会話は、異様に静かだった。
だが、内容は静かに火を灯す。
「ねぇ、ぱんちゃん。ふーくんに……あんまり近づかないでくれる?」
「そらんちゃんこそ、あんまり“物を消さないで”くれる?」
ぱんはにっこり笑いながら、伊勢丹の紙袋をそらんに差し出す。
「これ、例の写真。キャットくんのやつ。
消したくなったら、勝手にどうぞ。でも、もし私が困ることになったら……そらんちゃん、消されちゃうかもよ?」
そらんは数秒間無言だった。
そのあと、少女の声でコロコロと笑った。
「ほんと、ぱんちゃんって……最高にかわいくて、最悪な子♡」
ぱんも笑う。
「そらんちゃんもね♡」
【3】
一方、校舎裏。Aちゃんとねるちゃんが並んで自販機の前にいた。
「……ねるちゃんって、そらんと親友なんだよね」
「ん、そう。昔から」
ねるちゃんは肩の力が抜けたような笑顔で微笑んだ。
「でも、そらんは“誰かを守る時”しか出てこない。自分のために怒らない。
だから、もし誰かを攻撃してるなら……それは、そらんが“本気で怒ってる”ってことなんだよ」
Aちゃんはその言葉を胸に刻んだ。
「ねるちゃん……私はね、今でもりおんが大好き。
でも、それと同じくらい、そらんのこともちゃんと知りたいんだ」
ねるちゃんは何も言わず、肩をぽん、と叩いた。
……Aちゃんの肩が外れた……。
【4】
その夜、校門前に置き去りにされた封筒。
中には、髭もぐら先輩の30年前の生徒証と、キャットの動画の一部。
差出人の名前は書かれていない。だが、裏面にだけ文字があった。
「これが“お茶会”のルール。次は誰の番?」