第7章:そらん、姿を現す
【1】
放課後。昇降口の影に佇むひとりの少女。
スカートを揺らして振り向いた彼女は、りおんだった。
……いや、りおんではなかった。
「ふーくんっ♡ 今日もおつかれさまぁ♡」
ウィンク混じりの甘ったるい声。いわゆる“ぶりっ子系カワボ”。
でも、その声にはどこか……凍るような静けさもあった。
ふー太郎は名前を呼ぶ。
「……そらん、なんだよな?」
「うん♡ りおんちゃん、ちょっと寝ちゃってるの。だから、代わりにあそびに来ちゃった〜♪」
そらんはふー太郎の袖をそっとつまんだ。
【2】
その場にAちゃんが現れる。
「そらん……?」
そらんは数秒、彼女を見つめた。
そして微笑む。
「Aちゃん、こんにちはぁ♡ 今日も可愛いねっ!」
「……それ、ほんとに思ってる?」
「ん〜ん♪ でも、Aちゃんがりおんちゃんを守ってくれてるの、知ってるよ♡ありがと♡」
その言葉に、Aちゃんは少しだけ驚いた顔をした。
そらんは歩きながら、振り返らずに言った。
「でもね、私は……Aちゃんとマブダチになれるほど器用じゃないの。だからごめんね♡」
“嫌ってる”わけじゃない。ただ、“深入りしない”。
それがそらんの境界線だった。
【3】
その日の夜。保健室の出入り口には、**ころも(せきたての妹)**が立ち尽くしていた。
「お兄ちゃん……今日も帰ってこない」
ふー太郎が声をかけるが、ころもはただポツリと呟く。
「Pのつく人が危ないって言ってた。……ぱん先輩、最近誰かと話してる?」
そこへ現れたのは、馬肉。廊下に香水の甘い香りが漂う。
「ぱんちゃん?今日、髭もぐら先輩(30浪)と校舎裏で話してたけど?」
「……誰だよその濃いメンツ……」とぶるべるが横からつぶやく。
【4】
その夜、ふー太郎のスマホにメッセージが届く。
──送信者:そらん
「ふーくん、もちろん私だけ見ててくれるよね?♡
そしたら、次に消えるの……誰にするか、ちゃんと考えるね♡」
添付された画像には、黒い制服の一部が写っていた。
──誰かのもの。でも、誰のものかはわからない。
メッセージの最後にこう記されていた。
「Pの子も、Mの子も、Tの子も。ぜんぶ、ふーくんのことを見てたよね♡
だから私、ちょっと怒ってるの」
【5】
その頃、階段下の非常扉の前。
無口な少年──タラバガニは、静かに壁にもたれながら、何かを見ていた。
「……笑ってる場合じゃないよ、姉ちゃんたち……」
彼のつぶやきは誰にも届かなかった。
一方、キャットの旧アカウント名「もぶA」には、謎の配信通知が表示されていた。
「再起動まで、あと72時間」