第5章:なくなったスマホと嘘つきの笑顔
【1】
「先生ー!また盗難ですー!」
始業から5分。悲鳴のような声が教室を揺らした。
あめめが涙目で叫んでいる。
「りおん先輩のスマホ、昨日からずっと繋がらないと思ったら……ロッカーに置いてあったのが、今朝消えてたって!」
生徒たちの視線が交差する。
「誰かが持ってったってことか……?」とトマが眉をひそめると、
「まさか自作自演じゃね?」とぶるべるが冗談半分に言い放ち、すぐさまAちゃんに肩をバチンと叩かれる。
「ぶるべる。今、それ言う?」
「いや、でもこういう時こそユーモアが――」
「クラスに笑える空気あると思ってるの?見えてる?空気」
ぶるべる、しゅん。
【2】
そのとき、生徒会長が現れた。
髪はお手本のようなおさげ、白い手袋、完璧な姿勢。
「盗難、ですか。放課後、第三理科室で調査を行います。関係者は立ち会ってください」
「また第三理科室かよ……」とガバチョがつぶやいたが、声が低すぎて誰にも届かない。
せきたては空気も読まずに
「盗難より、今朝のにぇるこのすんごい寝癖の方が事件だと思う!」
「せきしゃん、黙れ」とうかんむりが低く一言。
にぇるこは不機嫌そうに口を開いた。
「私は寝癖じゃない。これは戦闘態勢。あと、りおんのスマホ、昨日の放課後までは確かにロッカーにあった。見た」
全員の視線がにぇるこに集まる。
「……え、それ言ってよ」
「言ったら巻き込まれると思った。バカは伝染するし……」
誰も反論できない。
【3】
放課後。第三理科室。
蛍光灯(LED)の明かりがちらつく中、関係者が集められていた。
ふー太郎、Aちゃん、せきたて、トマ、うかんむり、にぇるこ、みぅ、ぶるべる、あめめ、キャット、そして生徒会長。
みぅは落ち着かない様子で袖をぎゅっと握っていた。
「誰かが、りおんのスマホで……悪用してるんじゃないかなって。LINEが届いてたの。変な文」
「変な文?」ふー太郎が前のめりになる。
「“そらん”って名前だった。内容は……“もう全部見てるから”」
全員が凍りつく。
【4】
キャットが口を開く。
「そらん……誰?新キャラ?」
「りおんの裏垢か何かじゃね?」とせきたて。
「裏垢で人を脅してくる子が裏で人気者やってるって、それ、怖くね?」
ふー太郎は言葉を飲み込んだ。
──そらんは、りおんの“もう一人の人格”。
でも、それを知っているのは、今のところ、ふー太郎だけだった。
「もう一人いるんだよ。……りおんの中に」
喉まで出かかったその言葉を、ふー太郎は押し込めた。
彼には、まだ言えない。誰にも。
そのとき、教室の廊下から声が響いた。
「次は、君の番だよ――ふー太郎くん」
声の主は不明だった。
でも、窓の外を見たAちゃんの瞳が、ゆっくりと見開かれていた