第4章:午前0時、沈む声
【1】
次の日の朝、教室は妙に静かだった。
前列に座る葉月が、窓を見つめてぼんやりしている。隣の席のキャットは、珍しくマスクとサングラスで完全防備。
「お前、朝からVtuberモード抜けてないだろ」とせきたてが茶化すも、キャットは無視して何も言わなかった。
ふー太郎は教室のドアを開けてすぐ、違和感に気づいた。
──りおんが、いない。
彼女は、いつも一番乗りで笑顔をふりまいているはずなのに。
「珍しいね、寝坊かな?」とAちゃんが声をかけてくるが、その表情はいつも通り完璧。だけど──どこか、何かが違っていた。
【2】
その日、りおんは学校を休んでいた。
誰もが「体調不良かな?」と軽く流したが、ふー太郎だけは気になって仕方なかった。鬼LINE(追いLINE含む)も既読がつかない。
昼休み、うかんむりがふと呟く。
「りおんちゃん、昨日の帰り、変なこと言ってたんだよね。“もうすぐ会えるから”って」
「誰に?」とふー太郎。
「わかんない……でも、声が違った。“りおんちゃん”じゃなかった。冷たいというか……なんか、別の人みたいだった」
その瞬間、ふー太郎の背中に嫌な汗が流れた。
【3】
夜。ふー太郎はりおんの家に鬼LINE(100通)を送った。
「元気?無理しないでね。またあの曲、一緒に歌おうよ」
返信はなかった。
その直後、通知がひとつ。
──「そらんからメッセージが届きました」
名前は「そらん」。でもアイコンはりおん。そしてメッセージは一言。
「見つけないでね」
その瞬間、ふー太郎の胸の奥で、何かが崩れる音がした。
【4】
その頃、校舎裏で葉月とぱんが話していた。
「本当に、やっちゃうの?」
「うん。もう誰にも止められないよ、はじゅ」
ぱんは笑った。いつもと同じ、優しくてふわふわした笑顔。でもその瞳は、冷たい深淵のように揺れていた。
「でも……そらんが現れたら、計画、狂うかもね」
葉月が呟いたその名を、風がさらっていった。