第2章:嘘とカラオケと微熱の夜
【1】
放課後。駅前の「カラオケあめふれ」にぞろぞろと集まるメンバー。主催はもちろん、クラスの太陽・ふー太郎。
「さぁさぁ皆の者〜!ヤマザキ春の声祭りじゃ〜!」
「つまんないね」とAちゃんが軽くツッコむが、笑顔はなかった。
今日の参加者は、りおん、Aちゃん、ふー太郎、せきたて、うかんむり、トマ、あめめ、さくら、にぇるこ、クオン、みぅの総勢11名。教室では見せない顔ぶれの化学反応に、誰もが期待……していなかった。
さくら(運動部主将)は入ってすぐ、
「マイク何本?私絶対ハモるから!あとハモリ用レモンティー頼んでね!私アレ無いとハモれないから」
と謎の要求をして全員を困惑させた。
にぇるこはソファの隅に座り、スマホゲームに没頭。ゲーム中だけ異常に語彙力が高くなる。
「え、あたし今“火力特化型マジカルヤンキー”作ってんの。うるさいとMP下がるから話しかけないで」
【2】
ふー太郎が《純恋歌》を熱唱。歌声はプロ並み。しかし選曲があまりにも意味深。
「ねえ、今のって誰に向けて歌ってたの?」と、Aちゃんが笑いながら聞く。
「そ、そりゃ……“クラス全員への愛”ってことで!」
「軽ッ!」とりおんが爆笑したが、その目は全然笑っていなかった。
クオン(正義感MAX男子)が真顔で語る。
「歌ったからには歌詞に責任を持て。そうでないと、社会的信用を失う」
「クオン、今それ言う必要あった?」とみぅが微笑みながら肩をたたいたが、その笑顔は空気より冷たかった。
【3】
せきたてが《変わらないもの(でも下着は黒)》を熱唱。即座にあめめが反応。
「この人、また“替え歌界隈”の肩書き欲しがってる!そもそも曲知らない!」
「誰も欲しがってねぇし界隈も存在してねぇよ!!」とガバチョのツッコミが入ったが、声がボソボソすぎて届いてない。
【4】
事件は、Aちゃんがトイレに立ったすきに起こった。
彼女のバッグから、黒いノートがぽとりと落ちた。
──“告白された人リスト”。
何気なく拾ったのは、トマ。
「なにこれ……リスト……?おれ、1番に名前あるんだけど」
2番:ふー太郎
3番:ぽんぽこ
4番:キャット
5番:生徒会長
6番:……さくら?
「はっ!? あたしいつの間に告られてたの!?」
さくらが突然立ち上がり、なぜかスクワットを始めた。
「いや、それ今関係ない」とふー太郎。
りおんの表情がこわばる。笑い声が少しずつ消えていく。
そこへ、にぇるこがふとつぶやいた。
「このリスト、書いたの本当にAちゃんかな」
その言葉に、空気がぴたりと止まった。
戻ってきたAちゃんの笑顔は、まるで何も知らない子供のように、無垢だった。