第14章「おかえり、そらん -REALITY配信フェス前夜-」
明日はREALITY学園フェス。
各校の人気ライバーが集う年に一度の配信イベント。
満腹学園も全校参加で臨む一大行事――のはずだった。
でも今年は、空気が違っていた。
何かが起こる。誰もが、心のどこかでそう感じていた。
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りおんとそらん:静かな別れ
りおんは、仮想背景の確認をしながら鏡を見つめていた。使うのはこの前ゲットした壁紙Cだ。
「そらん、おる……?」
ふわっと甘い声が返ってきた。
『おるるよ〜、ずっとおるよ♡』
「ねえ……もう、守らなくていいんだ。私、大丈夫だから」
しばらく沈黙のあと、そらんの声がやさしく響いた。
『そっか……ちょっと寂しいけど、
りおんちゃんが“自分”で歩けるなら、私は安心して消えるよ』
「……ありがとう。そらんがいたから、私は壊れなかった」
『でもね……最後にひとつだけ、お願いしてもいい?』
「なに?」
『“ふーくん”、って呼んでみて♡』
りおんは吹き出しそうになりながらも、小さく微笑んだ。
「……ばか」
それが、そらんとの最後の会話だった。
そらんは、ふわりと微笑むような気配を残して、
りおんの心の奥で、静かに消えた。
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Aちゃん:叶わなかった想いの昇華
Aちゃんは控え室の鏡の前で、髪を整えていた。
手は少し震えていたけれど、それよりも胸がざわついていた。
スマホで開いた配信。
りおんの画面に、こう書かれていた。
『さようなら、そらん こんにちは、わたし』
映像の中で、りおんが語っていた。
「……私はもう、誰かに守ってもらわなくていい。
自分の言葉で、自分の意思で、生きていきたいから」
その瞬間、Aちゃんは全てを悟った。
(私は、あの子との恋に勝てなかったんじゃない。
りおんが、“りおん”として歩き出しただけなんだ)
あたたかい涙が流れた。
「あーあ、……あたし、やっぱりりおんのことが好きだったなぁ……鷲掴みしたかったなぁ……」
けれどその涙は、悲しみだけではなかった。
「でも、私の“好き”が、あの子の背中を押したのなら――それでいいよね」
Aちゃんは鏡に映る自分に微笑みかける。
「明日は一番きれいな司会、見せてやるから。ちゃんと、見ててね」
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裏でうごめく者たち
せきたては、ぽんぽこ先生から渡されたUSBを手に、
旧図書室の隅でファイル名を確認していた。
『truth_before_DELETE』
「これが全部の鍵……でも、今出すべきか?」
画面の奥で、録画映像が一瞬だけぱんの笑顔を映し出した。
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つきはぶるべるの配信アーカイブを見ていた。
ぶるべる「……今日のコラボ、俺、出ないかも」
コメント「つきちゃん来るんじゃないの?」
スマホを閉じて、彼女はぽつりと呟く。
「……逃げてんのは、あたしか」
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にぇるこはいつもの雑談配信でこう言った。
「さ〜て、明日のイベントで“全部バレる”って話、マジかな?
ぱんのクッキー、食べたやつ大丈夫?(笑)」
コメント欄が荒れた。
「伏線回収こわ」「マジでリアルホラーやん」
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ぱん:最後のターゲットに目を向ける
夜。誰もいない教室。
ぱんはひとり、ノートに丁寧な字でこう書いていた。
『Aちゃんの記憶 やさしく包もうね♡』
「りおんちゃんは、もう卒業。
次は……あの子の番だよね」
その笑顔は、やさしくて、どこまでも冷たかった。