表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

第11章「囁かれる真実、ゆらぐ心」

「……キャット、あなたも“黙って見てるだけ”ってわけじゃないのね」


その声は、あの天然癒し系の“ぱん”だった。


キャットは一瞬動きを止めたが、振り返らずに言った。


「……どうしてここがわかった」


「うーん、なんとなく?あたしってビビりじゃん?、気配に敏感だから~」


ぱんはくるりと首を傾け、何もなかったかのようにキャットの隣に腰を下ろす。

机の上のUSBに視線を落とし、ふわりと笑った。


「それ、見せるつもりだったの?」


「今すぐじゃない。タイミングを待ってただけだ」


「……そっか。じゃあ、見せないで。ね?」


ぱんの声色は変わらない。

けれど、その言葉には妙な重さがあった。


「君が何を隠してるのか、俺はだいたい察してる」


「へぇ~、なら教えて?あたし、記憶がちょっとね……ふふ、ぽんぽこ先生と一緒かも♪」


その名前を聞いた瞬間、キャットの表情がわずかに強張った。


「……君は、“あのお茶会”の中で、ずっと意識が明瞭だった。全員があの紅茶で曖昧になっていく中で、君だけはカメラを見てた」


「……そうだっけ?」


ぱんはくすくすと笑い、足を組み替える。


「でもさ、もし“あたしが仕組んだ”んだったら……それ、みんな信じるかな?

Aちゃんも、りおんちゃんも、ぶるべるも、ふー太郎くんも……あたしのこと、“ぱんちゃんはいい子だよね”って思ってるよ?」


キャットは言葉を詰まらせる。

「それが……お前のやり方か」


「ううん。“みんなの中に溶け込むこと”が、得意なだけ」


ぱんはUSBをそっと引き寄せ、指先で転がす。


「……あたしね、“ぱん”って呼ばれてるけど、本当はさ。

誰かの本音や嘘を、パンみたいにふわふわ包む役目なんだよ」


キャットが立ち上がった。


「もういい。君は“自分の罪”と向き合うべきだ」


「罪?なにそれ?」

ぱんは無邪気に瞬きをする。


「誰かが幸せな記憶だけ残せるなら、それでよくない?真実なんて、ただの痛みでしかないよ」


その瞬間、キャットの背後に気配が走った。

意識が遠のく。


「……君……まさか……」


「ごめんね。せんぱい、少しだけ……ねむってて」




翌朝。

掲示板に投稿された新しい映像。


《【暴露ファイルNo.002】“紅茶事件”とは?》


映像の最後、カメラが一瞬だけ“ぱん”の足元を映していた。

黒い影が、紅茶カップに何かを入れる動作……だが、その部分だけがノイズでかき消されていた。


コメント欄は炎上した。


《誰が消した?》《これはわざとだ》《編集された?》《そらんって誰?》



一方、りおんは鏡の前にいた。


「……あたし……本当に、“あたし”なのかな」


鏡の向こうの自分が、ゆっくりと笑う。


『うん、大丈夫。いまから“ワタシ”が守ってあげるね♡』


りおんの唇が、無意識に動いた。


「……ありがとう、そらん」



そして教室。


「なあ……おい、見ろよ。あれ、せきたてじゃね?」


廊下の向こうから、ほぼ全裸とも言えるボロボロの制服姿で歩いてくるのは――


「おいおい、やっぱ俺がいないと締まんねぇなぁ?」


そう言って笑った、**帰還した“せきたて”**だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ