第10章「崩れる記憶と、囁く真実」
「……あのお茶会、覚えてる?」
放課後、図書室の奥でAちゃんがりおんに尋ねた。
「え? もちろん覚えてるよ……たしか、あめめちゃんが焼き菓子持ってきて……」
「……違うの。私、あの日の最後の会話だけ思い出せない。つきちゃんも、そう言ってた」
ふと、りおんの顔が曇る。
ほんのわずかに、別の人格が現れかけたように。
「それって……最後にぽんぽこ先生の紅茶飲んでて……えっ!?そのせい……?」
Aちゃんの瞳はまっすぐりおんを見つめていた。
その瞳には、疑念と――隠された恋心が混じっていた。
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一方、旧放送室。
そこでは、もぶA――キャットが、ひとりモニターの映像を見つめていた。
【お茶会:5日前】
『ねぇ、つきちゃんって……誰かに告白されたことある?』
『うーん、ないってことにしておこっかな~(笑)』
『え、ふー太郎先輩、あたしのことどう思ってますかね』
『りおん、紅茶おかわりどうぞ♪』
その直後、映像が乱れる。
「……やっぱりこの瞬間、音声が途切れてる。ぽんぽこ先生……何を仕込んだ?」
キャットの眉がぴくりと動く。
モニターの横には、72時間合宿の映像記録もあった。
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別の夜、りおんは夢を見ていた。
──廃校舎の奥。崩れた壁の向こうで、誰かが叫んでいた。
「ふーくん、ダメ……見ちゃダメぇ」
目を覚ますと、手は濡れていた。
鏡の中の自分が笑っている。
その口元だけが――そらんだった。
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翌朝。
「なあ……あの72時間のとき、俺の寝袋、誰か入ってきたよな?」
ぶるべるが教室でポツリと漏らした。
「知らねーよ。……てか、そういう話、つきちゃんに言うなよな」
せきたての不在が残す“ぽっかり空いた席”が、教室の雰囲気をより奇妙にしていた。
そのつきは、プリントの裏に落書きをしていた。
「72……夜……ふー?……いや、あれ、ぶる……?」
彼女は記憶がぐにゃりと曲がっていくのを感じた。
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その夜。放送室。
キャットの手が、送信ボタンの上に置かれていた。
「これを送るべきか……それとも、まだ“視聴者”には早すぎるか」
彼は映像を止めた。
だがその背後には、誰かが立っていた。
「……キャット、あなたも“黙って見てるだけ”ってわけじゃないのね」
その声は、**あの天然癒し系の“ぱん”**だった。