第1章:マドンナの涙と黒いノート
私立満腹学園大学附属智辯高等学校――。
全国でも有数の名門校。偏差値は高く、伝統もある。しかし、その内情は「満腹」という名の通り、恋愛、陰謀、ギャグ、そして人間ドラマが胃もたれするほど詰まった、カオスな学園だった。
【1】──始業式の朝。空は晴れていたが、教室の空気は妙にざわついていた。
教室の中心で、パーフェクトマドンナ・Aちゃん(一般人A)が眉をひそめている。
「……あたしの机、ないんだけど?」
教室は一瞬、凍りついた。
「え、机ってどこ行ったん?さっき歩いてたの見たで?自立したんかな?」
教室の隅から、ふー太郎の声が飛ぶ。クラスの太陽、今日も絶好調だ。
「まさか夜のうちに“進学”しちゃったとか?目指せ東大って?」
せきたてが微妙な言い回しで被せる。
誰もがクスッと笑った。ふー太郎とせきたてのバカみたいな発言が、ほんの少しだけ張り詰めた空気をやわらげる。けれど──Aちゃんの顔は笑っていない。
「……本当に、どこにもないの。椅子も」
りおんが心配そうに駆け寄る。
「私の椅子、使って!ね、それか、私が椅子になるよ?大丈夫?」
「ありがとう……でも、ちょっと、怖いんだよね」
Aちゃんはサラッとスルーする。
その手には、一冊のボロボロの黒いノート。Aちゃんはそっと、それを抱えていた。
「告白された人リスト」
白インクで書かれたその文字に、りおんの表情がこわばる。
ふー太郎の笑顔も、ふっと曇った
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【2】りおんの逆ギレギャグ
「ふー太郎の声がよすぎてムカつくんだけど! なにそれ!ラーメンで例えると全部乗せじゃん!」
りおんが叫ぶ。
金髪のロングヘアが朝日に照らされて、モデル体型だが、実は音痴。
「ていうか、私の歌のひどさって、逆に武器にできるんじゃない?唯一無二というか。」
「いや、あれはもう毒ガス兵器よ」とにぇるこがツッコミ、クラスが爆笑する。
「この間、りおんのカラオケ聴いた犬、耳ふさいで逃げたからな」
「えっ、そんなに!?」とガバチョが小声で言うが、誰も拾ってくれない。
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【3】天然爆弾・ぱん登場
「おはよ〜!あ、教室こっちだったんだぁ!」
そう言って入ってきたのは、ぱん。
白いブラウスに、ゆるい笑顔。クラスの誰にも壁を作らない、天然天使だ。
「昨日、違う学年の授業受けてたんだよね〜。なんか雰囲気似てたからさぁ」
「まじかよ…それ担任が泣くレベルだぞ」とにぇるこがぼそっと言うと、
ふー太郎が笑いながら「まあ、ぱんらしいね」とフォローする。
ぱんは「てへっ☆」とピース。
そんな様子に、うかんむりは「ぱん先輩って、空気みたいにやさしい……」とぽつり。
だが、にぇるこだけは、ぱんをじっと見ていた。
(この子、あまりに無垢すぎて……逆に怖い)
【4】せきたての謎スカート事件
「ふー太郎、今日のおれ、ビジュどう思う?」
せきたてが言って振り返ると、なんとスカート姿。しかも女子制服。
「……どこの変態?」とりおん。
「ちがうの!これは家で洗濯間違えただけなの!」
「いや、あんた長男だろ、間違えるな」
「妹の仕業だ!俺は被害者なんだ!」
「じゃあ罰として、みぅんちで一日マリカーな」とクオンが冷静に言う。
みぅは「え?お兄ちゃんが増えるの?」と無邪気に笑う。
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【5】生徒会室で何かが起きた
昼休み、生徒会室の扉が開かれ、ざわめきが走った。
「金庫、開いてる……」
生徒会長が眉をひそめる。
開け放たれた金庫の中に、何かのリストが無くなっていた。
それは、まだこの学園が静かだった頃――“本当の満腹”になる前の、最後の平穏だった。