第二十一話 鍾乳洞制圧戦
幻惑の池から騎士と冒険者たちが水中洞窟を通って鍾乳洞入り口である地底湖に浮上してくる。
先遣隊との挨拶もそこそこに仕事を始めた彼らは全員が手練れらしい流れるような動きを見せた。
騎士たちは地底湖周辺の防衛陣地を構築。持ち込んだ鎖や鉄杭での足止めや設置盾による安全性の確保、周辺にある石柱や石棚へ登れるように縄梯子をかけ、弓や魔法が得意な者が登って周囲に目を光らせる。
怪我人の治療や応急処置を行うスペースや討伐した魔物の死骸が邪魔にならないように一時的にどけておくスペースなども設けてある。
流石に戦争を経験しているだけあって、騎士たちの動きも洗練されているだけでなく限られた人員で効率的な防衛ができるように設計された陣地だ。
冒険者たちは指定の場所へ急行して罠を設置し、合流した仲間と周辺の警戒を開始する。
今回は討伐が目的であって、魔物の素材は捨て置くことになっている。
そのためか、罠は素材となる部位を考慮しない凶悪なものも多い。毛皮がズタズタになろうが牙や角が折れようが知ったことではないと言わんばかりに凶悪な罠だ。
天井から垂れ下がる鉄条網、毒針が飛ぶ仕掛け、鍾乳石の根元に傷をつけて糸を切ると倒れてくる罠。
飢えている魔物が相手ならと、踏むと肉片が降ってきて魔物同士が奪い合うように仕向ける罠や、単純に毒を仕込んだネズミの死骸を適当な場所に放り込んでいる。
「ネズミに惚れられるポーションがこんな形で役に立つとは思いませんでしたね」
意外と使い道が多いと感心するセラの横でアウリオが遠い目をする。
「尊い犠牲だったね」
ネズミに惚れられるポーションは効果が三か月持続する。冒険者や騎士に飲ませると作戦に支障が出るため、森で捕まえた小型の魔物に飲ませて木に吊るした。
効果は覿面で半日でネズミが五十匹以上も捕まり、小型魔物はあちこち齧られてお亡くなりになった。討伐対象とはいえ無残な死に方に騎士も冒険者もドン引きしていた。
「人に飲ませるより効果があって興味深かったです。なぜこの違いが出るのか、詳しく調べてみたいところですね」
「やめてあげて?」
のんきに話しているが、セラもアウリオも臨戦態勢だ。
セラの役割は白化雨龍が出現した際に素早く対魔法ポーションを調合すること。アウリオはその護衛であり、オースタたち王国騎士団第五部隊とバトゥとベックを始めとした冒険者部隊は護衛兼戦闘員である。
特に、セラたちには潜水や水中戦闘に役立つ魔道具持ちやポーションが配備されている。白化雨龍が地底湖などに逃げても追撃できるようにする戦力でもある。
陣地構築が進み、罠の設置範囲も広くなっていく。
時々、耳の良い冒険者が鍾乳洞の奥から響く魔物の雄叫びを聞いたとの報告が上がるものの、当初の予想に反して順調に作戦が動いていた。
外に出ていた親龍が帰ってきても対処できるように幻惑の池周辺にも騎士たちが陣地を敷いている。こちらは討伐目的というよりも撃退が主で閃光の魔道具などが配備されている。
前後どちらも安全を確保して、討伐隊は動き始めた。
「白化雨龍の捜索を開始する! 横列を組み、徐々に鍾乳洞を制圧するぞ!」
第三部隊長の号令が響き、騎士たちが防衛戦力を残して隊列を組む。
冒険者たちはパーティ単位で斥候を担い、手に負えない魔物はセラたちの方へおびき寄せる作戦だ。
「緊張してる?」
冒険者たちと一緒に鍾乳洞を歩きながら、アウリオがセラに聞く。
セラは周囲を観察しながら首を横に振った。
「特には。どちらかというと、興味の方が勝りますね」
命がけなのはわかっているが、そんなことよりも錬金術師としてある種の最前線に立っていることの方が重要だ。
考案した対魔法ポーションは効果を確かめてあるが、白化雨龍がどんな攻撃魔法を使ってくるか分からない。もしも未知の毒などを使用してきた場合、現場で対処できるかも課題だ。
先頭を進む斥候役が声を上げた。
「トレントの群れが来る!」
「耐ベルジアカ毒ポーションの効果は残っている。早めに片付けよう」
鍾乳洞の奥から十体以上のトレントの群れがやってくる。龍伐の湖で見たような細いものではなく、セラの肩幅の二倍はありそうな太い白化トレントだ。
だが、この場にいるのは凄腕ばかり。数でさえこちらの方が多い以上負ける道理がない。
バトゥが矢を射た。外皮が分厚いトレントにはあまり効果がないが、バトゥが狙ったのはトレントが振りかぶった枝を弾くことだけ。
枝が弾かれたことで出来た隙に相棒のベックが踏み込んで豪快に斧をトレントに叩き付ける。
トレントの太い胴体が一撃で真っ二つになった。
他のトレントも瞬く間に討伐されていく。あまりの手際の良さに騎士たちも感心しているようだ。
時間をかけずに討伐を完了できたが、このトレントたちを食べようと別の魔物が寄ってくる足音が聞こえてくる。
広いとはいえ鍾乳洞の中で死骸を燃やすわけにもいかず、魔物の襲撃に備えて各自が気合を入れなおしたその時、斥候の冒険者が血相を変えて戻ってきた。
「報告! この先に巨大地底湖を発見!」
地底湖の発見それ自体は驚くに値しない。この鍾乳洞には少なくとも一つは龍伐の湖に続く地底湖があると予想されているからだ。
斥候を担う冒険者にも情報は共有されている。それでもこの慌てようならば、
「――白化雨龍の群れがいます!」




