第二十話 白化雨龍討伐会議
鍾乳洞の調査に当たっていた冒険者たちと合流したセラたちは、白化雨龍の巨体ならば安全と判断して匍匐前進で進む洞窟内ルートで外に出た。
胸が潰される匍匐前進ルートはセラには負担が大きく、長く続く閉所の不安感もあって二度と通りたくない。
洞窟の外に出た解放感を味わう暇もないままに、主だった人間を指揮所のテントに集めて緊急の会議が開かれた。
議題は当然、白化雨龍の繁殖についてだ。
中央のテーブルに置かれた卵の殻は匍匐前進で進む際に運べるように分割され、いまはパズルのように組み上げられてセラの実体魔力で支えられている。
「見つかった卵は一つですか?」
この場をもとから指揮していた騎士団の第三部隊長が質問する。
卵を発見したのはセラだが、実体魔力で朧気に感覚を掴んだだけで目視確認したわけではない。あの石棚の上に砕けた卵でもあればセラは気付けない。
「見つかったのは一つですが、これだけとは限りません」
「まぁ、そうでしょうね」
セラの答えに第三部隊長も同意する。
オースタが発言した。
「仮説ですが、白化雨は龍が幼龍を育てるための餌を呼び込むのが目的だったと考えます。白化した魔物は通常よりも脆くなる傾向もあり、幼龍が狩りを覚えるための相手としても適している」
繁殖のために環境を激変させているとすれば非常に迷惑な存在だ。
だが、龍伐の湖で餓死寸前なのに洞窟へ入ろうともしなかった白化トレントなども、圧倒的な捕食者がいる洞窟から逃げ出してきたとすればつじつまが合う。
冒険者の代表が険しい顔で舌打ちした。
「幼龍とはいえ、王国中から呼び寄せた白化魔物を一匹で完食しているとは思えねぇ。複数の幼龍と親龍がいるとみるべきだろ」
その場の全員が静かに頷いた。
幼龍一匹だけならまだいい。だが、最悪のケースを考えると冒険者代表がいう通りに複数の幼龍と親龍、さらには極度の飢餓状態で攻撃性が高まった王国各地の魔物たちがあの鍾乳洞にいる。
しかも、親龍は王国各地で白化雨を降らせているため、今後も魔物が追加される危険もある。
幼龍が育ち切ってさらに繁殖しようものなら、王国全土に白化雨が降り注ぎ、農畜産業が壊滅する。国家存亡の危機だ。
もっとも、ここ以外の洞窟にも分散して卵を産み落としている可能性もある。どちらにしても、目の前の問題から解決すべきだろう。
冒険者代表はアウリオをちらりと見た後、第三部隊長に向き直る。
「こんな時だ。国が信用できないだのと言う気はねぇ。だが、付け焼刃の連携じゃ龍を相手にできると思えない。どうする?」
討伐目標が多く強大である以上、具体的な作戦が必要だ。冒険者代表の言葉に、第三部隊長も頷いたが意見は出てこない。
白化雨龍は新種の魔物だ。有効な作戦など立てられるはずがない。冒険者の命までは責任をとれない第三部隊長が口を閉ざすのも無理のない話だった。
こうなると予想がついていたアウリオが建設的な意見を出す。
「まず、幻惑の池から鍾乳洞へ戦闘員を突入させて、陣地を築く。陣地構築は騎士の方が得意だろうから任せて、冒険者は周辺の警戒と罠の設置で飢えた魔物が陣地を襲うのを防止する」
ここまでで異論がないかとメンバーを見回したアウリオは続ける。
「冒険者は普段から魔物の討伐をしているから、飢えた魔物を相手しよう。白化雨龍が出たら、騎士が対応する。完全に役割分担した方が現場の混乱は少ないと思う」
白化雨龍の相手を騎士に丸投げする形になるが、集団戦術が取れる騎士の方が適任だろう。
第三部隊長が心配そうにアウリオを見る。
「いいのか? 白化雨龍討伐の名誉を我々がもらう形になるが」
「金だけくれればいい」
雑なアウリオの言葉に第三部隊長は困った顔で冒険者代表を見る。
冒険者代表は苦笑して肩をすくめた。
「そりゃあ、武勇伝にはなるだろうけどさ。名誉は墓に持っていけねぇし、騎士団と違って語り継ぐ奴もいねぇんだ。重んじるモノが違ぇのよ」
「ふむ、そういうものなのか……」
そこからはすんなりと話が進み、必要な物資が算出されていく。
物資の中には当然、人数分の水中呼吸のポーション、暗視のポーションや耐ベルジアカ毒を始めとする耐性ポーション類などがあり、リストを渡されたセラは必要素材の量を書きだす。
「少し多めに素材を用意していいですか? おやつが欲しいので」
「おやつ?」
不思議そうな顔をする第三部隊長に苦笑するオースタ。
騎士団の経理担当が少し首を傾げながらも答えた。
「多めに用意した方がいいでしょうね。不測の事態もあるでしょうから」
「騎士団の調合はおやつ付き……」
ギルド本部より待遇がいいかもしれない。
経理担当は渡された物資のリストを見て渋い顔をする。
「短期間にこれだけの物資を集めるとなると伝手がないですね。一か月あればなんとかなりますが……」
「幼龍がどれくらいの期間で成体になって巣立つか分からないんだ。時間はかけられない」
「そうは言いますがねぇ。冒険者ギルドからこの手の話を通せる人は派遣されてないですか?」
経理担当が冒険者代表に問うが、ここには調査や討伐のためにやってきた冒険者パーティばかりでギルドからの出向者はいないらしい。
だが、ギルド職員ならば一人だけここにいるとセラたちは知っている。
セラの視線を受けて、イルルが肩を落とした。
「受付嬢だけど、ギルドと国の窓口じゃないよ。やるけどさー」
港町のギルドの受付嬢がいつの間にか国家存亡の危機の最前線で仕事をしている状況にイルルがため息をつく。
「帰ったらしばらく休暇を取ろ」




