第二十二話 討伐作戦
げっそりしたダ・クマがセラの宿泊所を訪ねてきた。
「だいぶ慣れてきた……。戦闘に魔力を使うのは無理だが」
「大したものですよ」
アウリオに続き、実体魔力のポーションを根性だけで飲めるようになったダ・クマに、セラは軽く拍手する。
「慣れれば美味しいですよね?」
「不味い」
はっきりと否定されてセラは少しむっとする。
「どうしてみんな味わい方を理解できないんでしょうね。嘆かわしい」
「与太話はいらん。長が呼んでいる。来てくれ」
「アウリオさんは?」
「すでに呼んである」
ダ・クマに案内されて、巨木の上に作られた集落でも一番高い場所にある集会所に向かう。
集会所にはボグス族の長を始めとした戦士たちと、アウリオの他冒険者が数名集まっていた。
どうやらセラが最後らしく、長は自らの隣に来るように手招く。
「では、龍伐の湖の調査および生息していると思われる魔物の討伐について作戦会議を行う」
長の一言で戦士たちが背筋を伸ばす。
まずは状況の説明を、と長はセラに話を引き継いだ。
セラはここ三日ほどで調べ上げた結果を説明する。
「まず、巣くっている魔物について、検査結果からおそらくはトレントと思われます」
特定した毒はこの山脈に生息する植物ではなく、王国中央部に生息するベルジアカという樹木のもの。
トレントは植物の毒を魔法で再現、強化して散布する生態があるが、ほとんどの場合は生息域の植物毒を模している。
「やや離れているのが気になりますし、ベルジアカは水草ではなく陸上の樹木です。擬態としても成立しません。よって、かなり特殊な変異種だと考えられます。正直に申し上げると、私自身も実物のトレント変異種を見ないと信じ切れません」
本来は王国中央部の陸上にいるようなトレントが、なぜか王国北方の湖の奥底に潜んで繁殖している。にわかには信じがたいが、検査結果ではそうなっている。
どうにも煮え切らない報告ではあったが、誰も疑問を挟まなかった。確定するために湖底の調査するのだから、問題になるのはどんな危険が予測されるかだ。
王国南東部に行ったこともないダ・クマが質問する。
「そのベルジアカというのはどんな毒を持つ?」
「溶血作用を持つ毒で、極度の貧血を起こし、立ち眩み、意識障害などに発展します。ベルジアカの毒での死亡例は報告されていませんが、今回の討伐戦は水中で行いますので溺死しかねません」
加えて、トレントがばらまく毒は魔法で強化されている。通常のトレントは急激に毒が回るように強化してくるため、貧血症状を自覚したころには手遅れになる。
セラは持ってきた解毒のポーションを全員に見えるように掲げる。
「ベルジアカの生息域で調合されている一般的な解毒のポーションです」
ベルジアカの厄介なところは花粉に毒があるところだ。風によって吹き散らされた花粉が農作物に付着して被害を拡大させる。
そのため、古くから解毒のポーションが調合され、洗練された。
「この解毒のポーションはトレントが散布する魔法毒にも効果があります。昨日、倉庫で捕まえたネズミで実験し、効果を認めました」
「味は?」
ダ・クマがすかさず質問すると、戦士たちが食い入るようにセラの持つポーションを見つめる。
「一般的なレシピに沿って調合したモノなので一般受けする味ですが……。少し甘いですね」
変な質問だと思いつつ答えると、ダ・クマたちはほっとしたように視線をそらした。冒険者たちがうつむいて笑いをこらえている。
まぁ、興味があるなら製法も話しておこうかと、セラは説明する。
「沸騰水で処理したノギル草を煎じ、トナスイ鳥の嘴の粉末、生のスチロ藻をルベイト調合水に加えて混ぜた後、濾過して調合します。スチロ藻を食べたことがある方は少ないと思いますが、ほんのりと甘いんですよ」
ダ・クマたちは疑問を挟まないが、アウリオたち一部の冒険者は素材を聞いて感心したような目をセラに向ける。
簡単そうに言っているが、ノギル草は毒植物だ。植物毒に晒されると解毒成分を生成すると同時に周辺に対し強化した毒をばらまく。これにより、自身と毒性植物以外の植物を枯らし、生存を有利にする。
その性質上、農村部では非常に嫌われる植物で、見つけ次第焼き払われる害悪植物である。
処理が甘いと解毒どころか強毒化させてしまうだろう。
スチロ藻は毒などの刺激に対して魔法で微細な泡を発生させ、泡の中に毒を取り込む性質がある。分量が不適切だと体内で泡が大量に発生して窒息死しかねない。
国家錬金術師であるセラの調合なら大丈夫だとしても、半端な錬金術師が調合した物は口にしたくない素材を使っている。
セラは話を戻した。
「いま、龍伐の湖はトレントの毒が蔓延している状態です。湖面付近は濃度が低いですが、トレントの周辺は高濃度の毒で汚染されていると考えてください」
しかも厄介なことに、トレントを討伐しても魔法で生成された毒そのものは消えない。討伐戦の後は除染作業も必要になる。今から頭の痛い問題だ。
「トレントの数は不明ですが、影響が出始めたのが昨年の冬であること、冬の間に魔力濃度の低下がみられたことから現在は繁殖期に入っていると考えられます。幼体を見逃さないように注意してください」
セラからの説明は以上だ。後は具体的な調査討伐作戦の話になる。
すでにダ・クマやアウリオの間で作戦の話が煮詰まっていたらしく、セラの視点で問題ないかを確認する形で説明が始まった。
「ボグス族の船を用意してある。二人乗りのカヌーが四隻だ。調査、討伐に向かうのはダ・クマ、アウリオ殿、セラ殿、魔道具持ちのロウ・ダ・イオの四名。セラ殿、カヌーには乗れるか?」
長の質問にセラは首を横に振る。研究畑のインドア派にカヌーの操船などできるはずもない。
「では、操船役にタ・ナーレをつける。ダ・クマとアウリオ殿のカヌーに道具を積み込み、ロウ・ダ・イオのカヌーにボグス族の医師を乗せ、現場での緊急対応にあてる」
慣れない水中戦で相手の数も不明。重篤な怪我を負う可能性も高い。医師が付くのはそのためだろう。
「肝心の討伐戦だが、セラ殿は後方にて怪我人を湖面へ搬送してほしい。実体魔力のポーションで泳ぎが速くなると聞いている」
「わかりました」
戦闘に直接出るのはアウリオ、ダ・クマ、ロウ・ダ・イオの三人。腕は立つようだが、戦闘面では素人のセラは少し不安だった。
細々した話を詰め、明日決行と長が宣言し、解散となった。




