第十八話 推測と鎌かけ
タ・ナーレの同行は断ったが、そう上手く単独行動はとれなかった。
アウリオと合流しに男性陣の宿泊所の一つを訪ねると、そこにはボグス族出身の冒険者ダ・クマがいた。
セラがアウリオと親しいのはキノルの冒険者ギルドでは知られた話だ。網を張られていたらしい。
ここで集落の外に出る理由をごまかしても胡散臭さが増すだけだ。こうなってもいいようにさび猫イルルを連れているのだから、堂々とするだけ。
セラはアウリオとダ・クマを呼んで用件を伝える。
「水源地の調査に向かうので、護衛をお願いします」
ダ・クマは訝しむような顔でセラを見る。事情をタ・ナーレから聴いていないらしい。
セラはかいつまんで、水に含まれる魔力量が低下していることを告げた。
説明を聞いたダ・クマは無言で何かを考え、セラの横を抜けて外に出てくる。周囲を軽く見まわして近くにいたボグス族の若者に声をかけた。
「タ・ナーレに族長の下に行くよう伝えろ。錬金術師の話だ。それでわかる」
「わかりました」
若者を送り出し、ダ・クマはセラに向き直る。
「案内しよう。結果が気になる」
「詳しい説明は道中でしてもいいですか?」
ダ・クマが頷いたのを見て、セラは歩いてきたアウリオを振り返る。
「行きましょう」
ダ・クマを連れて行って大丈夫かやや不安そうなアウリオだったが、セラが促すと素直に剣を掴んでついてきてくれた。しっかりとセラの斜め後ろに立って警護してくれている。
案内係のダ・クマもアウリオの立ち位置に違和感を抱いた様子がない。自然に巨木から地面への梯子を下りて周辺の安全を見定めた後、セラたちに降りてくるように手ぶりで示す。
アウリオが先に地面へと降り立ち、セラも梯子を伝い下りる。梯子を一段ずつ下りながら、胸元のイルルに話しかけた。
「場合によっては実体魔力のポーションを使います。私が飲んだら、胸に隠れたまま絶対に出てこないでくださいね」
風笛草の生息地へ向かった場合、ダ・クマが妨害してくる可能性が高い。戦闘に発展してほしくはないが、無力化を躊躇わないように覚悟を決めておく。
地面に降り立ち、ダ・クマの先導で北へ歩き出しながらセラは事情を説明する。
ボグス族の交渉窓口だけあって、ダ・クマは地頭が良い上に広い知識を備えており、セラの説明をすぐに理解した。
「町の錬金術師も魔火の残量に気をつけろと口を酸っぱくして言っていたが、それが理由か」
「現状では大きな違いはないのですが、重傷治癒ポーションなどは少し注意しないといけません」
重傷治癒ポーションは体内魔力を八魔火消費して効果を発揮する。現状では九魔火に上がっている可能性がある。
ポーションは服用時に魔力を消費するため、魔力不足で効果が出なかった場合は魔力を全消失した状態になる。すぐに外科的な治療に移らなければ死に至る。
セラはボグス族の集落を振り返った。
「ボグス族に医師は?」
「いるにはいる。骨に達する傷も治せる。感染症にはあまり役に立たん。内臓は無理だ」
「欠損は?」
「凍傷の話なら、切除する。足ならまず死なん」
ダ・クマの話でセラに求められる役割もある程度見えてきた。
ポーションの中には欠損治癒や四肢治癒と呼ばれるポーションが存在する。
だが、これらのポーションは十魔火、二十魔火を消費する。
原理的には体内魔力で一時的に欠損部位を再現し、それを体に蓄えた脂肪やたんぱく質を用いて再構築していく。ポーションはあくまでも再構築の道筋を立てるだけなので完治するまで何度も飲み続けることになる。
凍傷や魔物との戦闘が身近なボグス族にとって、これらのポーションの消費魔力量が増加するのは命に関わる。
だから、ダ・クマはセラに早く水に含まれる魔力の減少の原因を突き止めてもらいたいのだろう。
風笛草という、魔火の消費を肩代わりする素材を専売しているボグス族の彼が率先して水源地に案内するほどに。
セラは懐から実体魔力のポーションを取り出した。
「ダ・クマさん、私たちは協力し合えると思うんです」
「……なんだ?」
セラの言葉の真意かポーションを飲んだことか、あるいは両方に警戒したダ・クマの反応が遅れる。
セラが飲んだ実体魔力のポーションの毒々しい深い緑色を見て、アウリオが即座にセラの一歩前に出て、ダ・クマとの間に割って入った。
セラは構わずダ・クマに確信を持って問う。
「風笛草の生息地に異常が起きていますね?」




