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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第二章 雪町キノル

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第十四話 ボグス族の集落

 山小屋で二泊して吹雪をやり過ごしたセラたちは夜が迫る頃に目的地に到着した。


「良い眺めですね」


 セラは思わず呟く。

 山岳民族ボグスの集落は山を越えた先、巨大な天然の陥没穴を近くに望む中腹にあった。

 ボグス族の住居は巨木の上に建てられたツリーハウスとなっている。一つ一つの建物は小さいが用途ごとに分けられていて、個人の住居と子供たちの住居が完全に分けられていた。子供は集落の全員で育てる文化だという。


 ツリーハウスへは丈夫な梯子を上っていく。巨木同士は吊り橋で渡れるようになっていて地面に降りる必要がない。深く積もる雪も魔物も関係なく集落内を行き来できる構造になっていた。


 見たことのない生活様式を興味深く観察するのはセラだけではなく、同行した医師や新人の商人も物珍しそうにきょろきょろと目を動かしている。

 セラたちは来客用の建物に案内された。人数が多いのもあっていくつかの建物に振り分けられる。

 夜も近いので今日のところは各自で休むことになった。


「女性はこちらへ」


 ボグス族では未婚の女性は住む場所からして違うため、セラは一行から離れた宿泊所を振り分けられるらしい。

 心配そうなアウリオたちに問題ないと手を振って、セラは案内役のボグス族を見る。

 美しい紅色で染められた毛皮の帽子がとても似合う十代半ばの女性だ。三つ編みの銀髪もオシャレで社交的な雰囲気がある。案内役を任されるわけだ。


「タ・ナーレです。お困りごとがあれば、遠慮なく申し出てください」

「錬金術師のセラです。ポーションの調合とついでにこのあたりの水源の調査に参りました」


 自己紹介をしながら、セラは目的を告げる。本来の目的にはもう一つ風笛草の調査もあるが、刺激するだけなので伏せておいた。

 タ・ナーレはセラの胸元から顔を出すさび猫イルルを見て笑顔を向ける。


「ポーション調合、毎年助かってます。でも、水源の調査? 初めてですね。あと、猫かわいい」

「水源が原因と決まったわけではありませんが、町で少々問題が起きていて、調査が必要なんです。この猫の名前はイルルですよ」

「イルルー、大人しくしていていい子。かわいい、えらい! 撫でていいですか?」

「どうぞ。冷たい手だと嫌がるかもしれませんが」

「町の人は握手の文化があるって聞いたので温石で手を温めておきました。触れるはずです」


 タ・ナーレがそっと手を伸ばすと、さび猫イルルは自分からあたりに行くように首を伸ばして額を押し付けた。途端にタ・ナーレが満面の笑顔になる。


「かわいい。毛が短い猫はこのあたりでは珍しいです。触り心地も全然違う」

「好奇心が旺盛な子なので、集落の中を散歩するかもしれませんが、頭もいいので迷子になる心配はいりません」


 さりげなく、イルルが集落をうろつくことを示唆しておく。これで怪しまれる心配も少なくなるだろう。

 タ・ナーレはイルルの頭を撫でて満足すると、巨木の間を渡す吊り橋を歩き始める。


「集落内にも猫がいます。冬の間は倉庫の近くでネズミを捕ってる。イルル、喧嘩しちゃダメだよ?」

「にゃー」

「返事した! 頭いい」


 きゃっきゃと無邪気に喜ぶタ・ナーレを見ると、猫の正体を知るセラは少し罪悪感が顔を出す。

 これも仕事の一環と割り切って、セラはタ・ナーレに質問した。


「その倉庫はどこにあるんですか? イルルがここの猫と仲良くなったらその倉庫に入り浸りそうなので知っておきたいんですが」

「近いよー。ほら、あの下にある大きい建物。あれが倉庫」


 タ・ナーレが指さしたのは樹上にある集落の下、巨木の根本から集落の土台のように縦に伸びている建物だった。

 てっきり集落を支える柱だと思っていたが、四階建てになった倉庫らしい。


「中は階段があって、上からしか入れない。でもネズミが壁に穴を開けたり上から入ったりして大変なんだよ。雪が降り始めると特に。中を見てみる?」

「いえ、必要な素材は持ってきていますから。イルルにだけ気を付けていただければ」

「わかった。倉庫番に伝えておくね」


 これでイルルが倉庫に侵入しても許されるだろう。

 セラは胸元のイルルを見る。任せろ、とばかりにウインクされた。

 倉庫内に風笛草の備蓄が十分にあるかどうか、イルルが明日にでも確かめてくれる。

 セラに割り当てられた宿泊所は他に比べてやや大きな建物だった。


「女性が一人とは限らないから大きめのを準備してたんだ。錬金術師なら作業に空間も欲しいよね? ここでいいよね?」


 タ・ナーレが言う通り、作業場も確保できるのはありがたい。

 セラは礼を言って中に入る。円形の広間に四つの扉とその先に小部屋がある。入り口にはカーペットが敷かれており、虫よけにもなる木の香りが心地よい。

 暖房器具が見当たらないが不思議と寒くない。気密性の高い建物なのだろう。ポーション調合の際には換気に注意しなくてはいけない。


「あとで湯たんぽを持ってくるよ。何か他に欲しいモノある?」

「そうですね。この集落に井戸はありますか?」

「あるよ。でも、この時期だと雪を煮溶かして濾過したり、作っておいた氷を溶かして飲むね。どっちが欲しい?」

「両方をいただきたいです。水源調査の一環なので」

「もう夜だよ? 寝たら?」


 タ・ナーレはセラを心配しながらも二種類の水を湯たんぽと共に持ってくることを約束して、宿泊所を出ていった。

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