第二話 出向の理由
風呂上りにアウリオと待ち合わせている宿併設の食事処に入ると、意外な顔を見つけた。
向こうもセラとイルルに気付いたらしく、口元近くまで運んだスプーンを下げてセラに片手を振った。
「セラさん、奇遇ですね」
そう呼び掛けて愛想のいい笑みを浮かべるのは、王立騎士団のオースタだった。
奇遇なはずがない。セラは国立錬金術師ギルドから届いた命令書に異動の理由は書かれていなかったのを思い出していた。どこかで理由を教えてくれる人物でもいるのだろうと思っていたが、騎士のオースタなのは意外だった。
冒険者ギルド関係者であるイルルやアウリオとは少々相性が悪い相手だ。
オースタもセラに護衛のアウリオがついていることは予想していただろう。だから確実に男女で分かれる風呂上りに顔を合わせようとした。
オースタはセラの横のイルルをちらりと見て、ごまかすように笑う。
オースタのその態度だけで、セラは今回の左遷先もまた冒険者ギルドによる反乱疑惑があるのだと察した。
「オースタさんは休日ですか? それとも、次の任務先へ?」
「ここから北方のキノルにいる騎士団との合同演習の打ち合わせに行くところです。副隊長なんていっても、雑用ばかりですよ」
事情を知るセラでも嘘か本当か判別がつかないオースタの言葉に一応納得して、セラは同じテーブルに着いた。
イルルは少し居心地悪そうにしながらもセラの横に座る。
「私たちもキノルに向かうところです」
「またもや奇遇ですね。私は馬で向かいますが、お二人は?」
「徒歩です」
「では一緒に、というわけにはいきませんか。一人旅は寂しいんですけどね」
一緒にはいけないと分かるとイルルはほっとしたような顔をして、一人旅は寂しいというオースタに申し訳なさそうな顔をする。表情がころころ変わって見ていて面白い。
セラはオースタに問う。
「私たち、キノルについては良く知らないんです。現地の情報などがあれば教えていただけませんか?」
具体的には、セラの出向を命じた国立錬金術師ギルドの思惑に繋がるような情報が欲しい。
セラの要求を正確に把握したらしいオースタはスープを飲みながらしばらく考えを整理し、話し出した。
「キノルは雪の町です」
オースタ曰く、キノルは山岳地帯に存在する半年以上雪と過ごす寒冷地らしい。
特殊な生物や魔物もいるほか、国に属さない山岳民族も暮らしている。治安は比較的良い方ではあるものの、雪で交通が寸断されることがたびたびある。
「早く向かった方がいいですね」
ただでさえ旅程に遅れが生じている。このまま雪の降る季節になると、キノルへの道が閉じてしまうかもしれない。
どこかで隊商にお邪魔することも考えた方がいい。
オースタはセラを見て、あくまでも世間話のように続けた。
「錬金術師のセラさんが興味を持ちそうな話だと、一部の素材が不足していると聞きますね」
「ポーション素材ですか?」
出向の理由はまず間違いなくそれだろう。ヤニクのコロ海藻不足と同じようなことが起きているらしい。
ポーション素材は冒険者ギルドも扱うため、イルルも興味を示した。
これ幸いと、オースタは話す。
「風笛草は知っていますか?」
「当然です」
寒冷な山岳地帯に生える薬草の一種だ。
ポーションは服用者の体内魔力を消費して効果を発揮するが、風笛草はこの体内魔力の消費を軽減する効果を持つ非常に重要なポーション素材である。その根には魔力を吸収除去する作用があり、素材に含まれる余分な魔力を除去するのにも使用される。
錬金術師にとって非常に重要な薬草であると同時に、医師や魔道具師にとっても価値を持つ。
親戚に魔道具師がいる上に自身も変身の魔道具持ちのイルルが口を挟んだ。
「確か、花が喘息や気管支炎の薬になるんだよね。高級のど飴ってことで受付嬢みんなに配られたことがあったよ。あと、染料が魔力の通り道になるから魔道具にも使うって」
「よくご存じですね」
オースタは嫌みのない笑顔でイルルに拍手する。
「その風笛草の流通量が減っています。昨年からですが、影響はすでに出ています」
風笛草の魔力消費軽減の効果は重傷、重体の患者に使用するポーションに恩恵がある。必要な体内魔力が足りなくても、風笛草をレシピに加えたポーションならば魔力が足りる場合があるからだ。
騎士団や冒険者など、戦う仕事をする人間にとって文字通り命に関わる。
冒険者ギルドが意図的に風笛草を市場に流さずため込んでいるとすれば、反乱疑惑に結び付く。
オースタと目があって、セラは内心でため息をついた。
半ば予想はしていたが、オースタがキノルに向かうのもセラと同じく冒険者ギルドの反乱疑惑の調査だと、視線で察した。
現地では自然な形で接して情報交換をすることになるのだろう。




