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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第一章 港町ヤニク

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第二十七話 オースタ

 セラが間に入ったことで冒険者ギルドと王立騎士団の共闘はすんなりとまとまった。

 冒険者たちは何故セラに怯えているのか騎士に聞きたそうにしていたが、まだ雑談するほど打ち解けてはいない。

 それでも後顧の憂いがなくなったことで、冒険者たちはすぐに漁師ギルドと海へと漕ぎ出した。

 目まぐるしく状況が動く一日だったが、摘発に参加しないセラは日常業務に戻るだけだ。


「――また明日ー」


 冒険者が出払って暇を持て余した受付嬢たちが入れ代わり立ち代わりセラの研究室を訪れて薬草茶を飲んでいく。最後に訪れたイルルはそう言って研究室を出ていった。

 もう日も傾いて、冒険者ギルドの業務はほぼ終了だ。警備の冒険者と緊急事態に備えた夜番がいる程度でギルド内も一気に静かになっていく。

 セラは試作したポーションを成分分析に掛けて、ソファを振り返る。


「音を立てても大丈夫ですよ?」


 ソファに腰かけてセラの作業を見守っていたオースタが小さく笑った。


「いや、恩義のアウリオがいたら退散しようと思ってこっそり入っただけですよ」

「アウリオさんには少々、買い物を頼んだのでしばらく帰ってきません」

「それを聞いて安心しました。でも時間はないようだから単刀直入にいきましょうかね。国立錬金術師ギルド本部でも例の反乱疑惑を追っているんですか?」


 オースタの優しそうな笑顔の中、目元だけが鋭さを帯びる。

 セラは無表情で首を横に振った。


「私は左遷されただけですよ」


 内偵ということになっているので同じ国の組織であっても迂闊に話すわけにはいかない。

 オースタは目元を和らげた。


「では、そういうことにしておきましょう。こちらも半信半疑でしたし」


 そう言って、オースタは研究室を見回す。

 物置部屋だった名残の荷物はいまだに迷路を作っているが、専門店に行かなくては購入できない薬品なども揃った歴とした研究室だ。


「仲裁を頼まれているのを見ても思いましたが、ずいぶんと信頼されていますね」

「研究環境を整えようとする内に、受け入れられました」

「普通は無理ですよ? 素材も満足に揃えられない錬金術師なんて気絶した騎士より役に立たない」


 素材、と聞いてセラはオースタたち王立騎士団の来訪理由に気付いた。


「ヤニク冒険者ギルドが戦力を集めているからやってきたわけではないんですね」

「セラさんと同じ案件だと思いますよ」


 にこやかに、コロ海藻不足からくる冒険者ギルドの反乱準備の疑惑を匂わすオースタは続ける。


「ただ、騎士が出向いても朝のような騒動になるだけで調査どころではありません。強制捜査をしようにも大義名分がない。騎士団としては冒険者の動向を探って準備するしかありませんでした。上もそれを分かっていたのでしょうね」


 おかげで左遷同然の待遇でヤニクへ飛ばされた身としては笑えない。

 セラはイルルたちへ出した薬草茶の残りをコップに注ぐ。香りはだいぶ飛んでしまっているが、文句を飲み込む助けになった。

 オースタが続ける。


「それで、素材が品薄になった原因は密猟者で間違いありませんか?」

「品薄になったので密猟者が出たのだと思っています」

「そうでしょうね」


 予想していたのか、オースタはあっさりとセラの推測に頷いた。


「コロ海藻の不足はヤニク周辺に限られています。徐々に範囲が広がっているのは気にかかりますが、密漁者もそれほど大きな規模ではないでしょう」

「密漁してまで薄利多売というのもおかしな話ですからね。もっと利益率の高いものを狙うのが普通です」

「狙えなかったのでしょうね。パラジアに港が襲われたと聞いています。海中にパラジアが大量発生でもしていて、手に入りやすいコロ海藻しか狙えなかった。密漁者が護衛の冒険者を雇うわけにもいかない」


 意見をすり合わせていっても、結局はコロ海藻不足の原因はわからない。

 セラは実験机を振り返る。成分分析の結果が出ていた。

 ノートに結果を書き記しつつ、セラは話を続ける。


「海底調査をすべきです。騎士団の方でお願いできませんか? 海中透視のポーションや海中呼吸のポーションは騎士団に備蓄がありますよね?」

「ありますが、調査は難しいでしょう。パラジアは海でそれほど強い魔物ではありませんから、パラジアを餌にしている強力な魔物が近海に来ている可能性があります。海中では騎士といえど剣を振るうのは難しい」

「実体魔力のポーションがあるので水圧は関係ありませんよ」


 自身の周囲に展開した魔力を実体化させる実体魔力のポーションは、水圧への抵抗はもちろん、魔力を展開した範囲内であれば水そのものを押しのけて剣を振るう空間も作れる。


「騎士の方なら実体魔力のポーションを飲んだ経験がありますし――」

「お願いします。それだけは止めてください。本当にお願いしますから」


 ソファから立ち上がって深々と頭を下げてまでオースタに止められて、セラは懐から出そうとしていた実体魔力のポーションを戻す。


「では別の方法を考えましょう」

「そうしてください」


 ほっとした顔でソファに座りなおしたオースタは実験机の上を片付け始めたセラに質問する。


「ところで、何の実験をされているんですか?」

「コロ海藻なしには作れないポーションの代用品を一から開発しているところです」


 進捗は六割程度。多少は割高になるが完成の目途はついてきた。

 研究ノートを部屋に備え付けの金庫に入れて鍵をかける。半端な知識で研究の再現をしようとすると事故が起こるため、盗み見られることがないように保管は徹底している。

 オースタは怯えるような顔でつぶやいた。


「冒険者たちに同情しますよ……」


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― 新着の感想 ―
 不味いだけでここまでの態度になるかねぇ?
あーまずいのか、、、しかも死ぬほど
騎士が怯える程にクソまずいのか。
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