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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第一章 港町ヤニク

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第十七話 説明会の提案

 ヤニクの冒険者ギルドに国家錬金術師がいる。その事実をいままではないものとして扱っていたのが、外から多数の冒険者がやってきたことで流れが変わってきた。

 分かりやすい例を挙げれば、冒険者ギルドのポーション売り上げが目に見えて落ちた。

 左遷の錬金術師が作ったかもしれないポーションよりも、ヤニクに工房を構える錬金術師から直接購入する方が安全という認識が広まったらしい。


「――と、いろいろと問題が起き始めているんだよ」


 ヤニク冒険者ギルド長コフィは白髪頭を項垂れてセラに説明した。

 セラの存在に迷惑しているとまで言わないのは優しさなのだろう。だが、早く辞表を出してほしい本音が透けている。

 ポーションの売り上げに引きずられるように、ギルド内の販売所の他の商品も売り上げが下がりつつある。実害が出ているのだ。

 経営者のコフィからすれば頭の痛い問題だと思う。セラも少し同情した。


 そして、セラは同時に納得した。

 国家錬金術師ギルドから自分が選ばれたのは、ギルド内政治を放り出すほど空気が読めないと思われたからだ。内偵の任務が完了するまで、冒険者ギルド内の圧力を読み取れずに居座れる、有体にいえば厚顔無恥さを評価された人事だった。

 国の機関である国家錬金術師ギルドと対立するのは避けたいコフィが縋るようにセラを見上げる。解雇通知なんて出せないのを察してほしい。そう顔に書いてある。セラにも読み取れるほどはっきりと。


「大変ですね」

「……大変なんだよ」


 セラの短い感想を聞いたコフィが諦めたようにため息をつく。

 今後も事あるごとにギルド長室に呼び出して圧力をかけてくるつもりだろう。研究開発を中断されるのも煩わしいので、セラは問題を解決する方法を提案することにした。


「では、販売所に置くポーションを変更してみましょう」

「変更?」


 長年の需要を見てきて今の商品になったのに変更したところで何の意味があるのかと、コフィは胡散臭そうにセラを見る。


「変更したところで需要がないから売れないだろう」

「効果はそのまま、販売価格を二割抑えた別素材のポーションを売りましょう。副作用で船酔いしやすくなるポーションもありますが、かえって町の錬金術師との差別化もできます」

「待て、待って! それはダメだ!! 町の錬金術師との関係が破綻してしまうだろ!」


 すでに国家錬金術師が在籍するというだけで関係が悪化した。より安い価格で同効果のポーションを販売すれば関係破綻へ一直線だ。

 さすがのセラもこの提案が通らないことくらいはわかっている。


「では、ギルドホールを貸してください。町の錬金術師の方々に別素材での代替ポーションのレシピをお教えして、ギルドの販売所でのみ取り扱う形にすれば関係悪化を防げますし、売り上げも多少は戻ります」

「ギルドホールを? あ、そういうことか。教える姿を冒険者に見せて噂の流れを変えるつもりだね」


 セラが教えることで、錬金術師や冒険者から評判を改善。実際に調合するのは町の錬金術師だから販売所の売り上げに響かない。セラとしても、門前払いされていた町の錬金術師との交流ができ、情報交換ができる。

 誰も損をしない提案だ。

 コフィは腕組みして唸る。


「狙いはわかったが、セラさんを護衛する者が必要になる。ギルド内で騒ぎを起こす冒険者はいないと思いたいが、集団になると暴走するものだからね」


 セラはギルドホール程度の範囲なら自分の身を守るくらいはできると思う、だが、プロの見立ては違うらしい。

 素直にコフィの言うことを聞いた方がいいだろうと、セラも護衛役を考える。


「頼めば応じてくれそうな冒険者に心当たりがありますが、依頼するとなると料金がどうなるのかわかりませんね」

「ちなみに、誰だい?」

「アウリオという方です」


 報告が入っていたのか、コフィはすぐに誰のことか思い当たったようだ。


「なるほど。では、こちらで調整してみよう。護衛依頼料についてはギルドが持つ。セラさんは午後までに簡単なものでいいからレシピや必要な道具類を列挙した資料を準備してほしい。その後、取引のある町の錬金術師に話を持っていく。顔つなぎにはイルル君がいいかな。愛想もいいし町に知り合いも多い」


 コフィは解決策が示されただけでとんとん拍子に話を進めていく。

 セラはポケットからすでにまとめておいた資料を取り出した。話に乗ってくるかは五分五分と見ていたため、説得力を上げるために準備しておいたものだ。


「素材、市場価格、販売価格、効果や副作用をまとめてあります。レシピについては注意事項も多いので、半端に書き起こすと事故のもとですから省いてあります」

「レシピを教える説明会では手順書を作っておいてほしい」

「わかりました」


 セラから資料を受け取ったコフィは指で文字の上をなぞるように読み進める。


「いままで流通していなかった理由がわかる副作用ばかりだね。一定時間、髪が鱗状に変化するくらいでも嫌がる冒険者が居そうだ。副作用を抑えることはできるのかな?」

「抑えたうえでそれです。価格を倍にすれば副作用をなくせますが、本末転倒です」


 資料にあるのは失敗作のようなポーションばかり。より優秀なポーションがあるからこそ淘汰されていき、資料としてレシピばかりが残るようなポーションだ。

 碇のポーションをはじめ、いま主流のポーション類が効果も価格も優秀なのがよくわかる。

 もっとも、その主流のポーションの価格に問題が出た現在、これらのポーションはちょっとした救世主になる。

 コフィはやや難しい顔をしつつも、資料を見て頷いた。


「素材も手に入りやすいものばかり。副作用は気にかかるが、新人の冒険者が普段使いする分には問題ないね」


 決まりだ、とコフィはセラを正面から見て言い切る。


「この件を任せる。相談は私に直接してほしい。資金の都合も付けよう」


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― 新着の感想 ―
髪が鱗状だけで良かった。 永久脱毛だったらどうなった事か、、、、、
最善より、次善三善を。 中川良一には無かった思考ですね。
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