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左遷の錬金術師の解決薬  作者: 氷純
第一章 港町ヤニク

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第十話 冷遇

 ギルドの二階に通されたセラが自己紹介すると、ヤニク冒険者ギルドを束ねるコフィは「本当に来ちゃったよ」という顔をした。


「あー、ようこそ? 歓迎はできないけども。辞表はいつでも私のところに持ってきていいから」


 コフィは白髪が目立ち始めた頭を掻き、手元の資料に視線を戻す。

 そんなコフィにセラはカマナックから渡された手紙を差し出した。

 手紙を一瞥したコフィは困ったような顔をする。


「カマナックさん? あー、それでウチに寄こされたのかー」


 コフィは面倒くさそうに資料を机に置き、手紙を読み始める。


「服用者と直接触れ合う経験をさせたい、ね。そんなことを言われても冒険者ギルドじゃ無理だって……」


 面倒くさそうに天井を仰いだコフィは独り言を続ける。


「カマナックさんの紹介だと無下にはできないけども、だけれども、あー、どうしたもんかなー」


 最後に盛大な溜息を吐きだしたコフィがセラに向き直った。


「いうまでも無いことだが、冒険者と国は仲が悪い。これは感情的なものだから、私がどうにかすることもできない。無論、暴力行為などは取り締まるが、君にとって職場環境は最悪だろう」


 階下の受付嬢の反応からも想像通りだが、面と向かって言われると嫌な気分になる。

 コフィが壁に掛けられている鍵の中から一つを取った。


「一階の奥にある物置部屋の鍵だ。それほど広くはないが、ギルド職員以外が踏み込むことのない場所でもある。好きに使って構わない」


 セラはコフィに投げ渡された鍵を空中で掴み取る。荒くれ者をまとめる冒険者ギルドだけあって扱いがぞんざいだ。国立錬金術師ギルド本部で同じことをすれば始末書ものである。危険な薬品が保管されている棚の鍵などもあるため、紛失に繋がりかねない扱いは強く注意されるのだ。

 異文化圏に来たような気分を味わいつつ鍵を眺めていると、コフィは続けた。


「感情的なものだといったが、その悪感情を払拭できれば居心地は良くなると思う」

「頑張ります」


 口では殊勝なことを言いながら、セラは可能な限り早く冒険者ギルドの反乱計画の証拠かポーション素材の流通不足の謎を解いて王都に帰ろうとひそかに決意する。

 そんなセラの内心を知る由もないコフィは同情的な視線を向けながら口を開く。


「頑張り屋な君に悪い知らせがある」

「どうぞ。ここ最近で耐性もつきましたので」


 どうせ知らない方が痛い目を見る。そんな割り切りもあってセラは続きを促したが、コフィは言いづらそうに話し出す。


「国家錬金術師が出向してくるとギルド内に周知したのだが、それが元で以前からポーションを卸してくれていた町の錬金術師と騒動が起きた」


 冒険者ギルドは怪我が絶えず、即効性の高い治癒効果を発揮するポーションは必需品だ。そんな冒険者ギルドと町の錬金術師との関係は良好なものだっただろう。

 そこに、いきなり国家錬金術師が出向してくる。

 町の錬金術師は不安になる。最大のお得意先である冒険者ギルドが自前でポーションを製造できる体制を整えたことになるからだ。


「町の錬金術師は今までも冒険者ギルドに卸すポーションの価格を抑える努力をしてくれていたんだ。最近はポーションの各種素材も高くなっているだろう?」


 コフィがわずかに探りを入れるような目でセラを見た。

 セラの立場で話せることもないので無言で続きを聞く。


「冒険者ギルドとしても、今後とも町の錬金術師からポーションを購入する契約を結んで関係を改善する努力中だ。この騒動を聞いた冒険者から、国家錬金術師が来ても追い返せと陳情が来ている」

「……つまり、私に悪感情を持っているのはギルドの人だけじゃないと?」

「町を出歩く際には気を付けてほしい」


 想定以上にアウェーな環境に来てしまったらしい。

 コフィが同情的な視線を向けて、机を指さす。


「組織上、出向者であるセラ君は国立錬金術師ギルド本部の所属だ。ただ、辞表については私が受け付けられる」


 要約すると、出ていくのなら今の内だという警告だ。

 セラとしても早く出ていきたいところだが、一応は冒険者ギルドの内偵調査を請け負った身。トンボ返りは不味い。

 そもそも、ここで辞表を提出すると錬金術師ギルド本部を辞する形にもなる。帰る場所もない無職の完成だ。それは避けたい。


 辞表を書き始めるつもりがないセラを見て、コフィは深くため息を吐き出す。

 コフィとしてもセラは扱いづらい立場だ。国から出向という形で左遷されてきた使い物になるとは思えない人物。下手に扱うと国の介入を招きかねない危険物。さらには冒険者や町の錬金術師との関係を悪化させかねない。ギルド内の空気も悪くなること間違いなし。

 出て行ってくれればありがたいんだよなぁ、そんな心の声が聞こえてくるようだ。

 お互い大変ですね、とは言えず、セラは代わりに仕事内容について質問した。


「ひとまず、いただいた部屋の整理をしてから業務に取り掛かろうと思います。ポーションの各種素材について、在庫を確認させていただきたいんですが、倉庫はどちらでしょうか?」

「あー、それなんだけどね」


 コフィは白髪を弄りつつ、今日一番の歯切れの悪さで告げた。


「あー、君は冒険者ギルド所属じゃないから、その、だね。あー、施設内の利用に制限がかかるんだ。つまりその、倉庫には……立ち入り禁止だ」


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― 新着の感想 ―
これなんて無理ゲー?
素性隠さずに査察行きます言うたらそらこうなる。
これじゃあ国家錬金術師とは名ばかりの文鎮じゃないか 錬金するにも素材の開拓からだが、街の住人からもよく思われてないみたいだし前途多難だなぁ
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