ピアノ型知的生命体報告書
彼らの姿はグランドピアノに酷似している。
言語を持ち、音階話法で話し、楽譜文字で書く。彼らの文章は五線譜で表される。
ミュージックは彼らにとって論理であり、芸術ではない。
にもかかわらず、整合性の取れた話は美しいメロディそのもので、支離滅裂な話は雑音に聞こえる。
この惑星上で知的生命体と呼べる存在はピアノ型だけである。
グランドピアノ型がもっとも進んだ文明を持ち、現代人類に比すことができる。
アップライトピアノ型とは会話できるが、彼らは文字を持たない。
ポータブルピアノ型は鳴くだけで、まったく知的ではない。サクソフォン型の方が賢いほどである。
ピアノ型はすでに絶滅しているオルガン型から進化した。
グランドピアノ型の文書にそのように記してある。
オルガン型は巨大化し、パイプオルガン型が出現するに至った。
現生のピアノ型はハモンドオルガン型から派生した。
ピアノ型は言語を発明し、文明を進歩させ、惑星上で繁栄した。
オルガン型は競合できず、真っ先にパイプオルガン型が滅び、ハモンドオルガン型等も滅亡した。
現生のキーボード型はピアノ型のみである。
グランドピアノ型がもっとも繁栄し、万物の霊長であると称している。
アップライトピアノ型は絶滅に瀕している。
ポータブルピアノ型はグランドピアノ型のペットとして生き永らえている。
グランドピアノ型と語るとき、私たちはグランドピアノを持ち出し、演奏する。
アップライトピアノを使って話しかけると、彼らは罵詈雑言で返してくる。
グランドピアノを使うのが礼儀なのである。
彼らの聖書は驚くほどバッハの平均律クラヴィーア曲集に似ている。
翻訳するとそれは我々の聖書に似ている。
音声データと五線譜の文章を添付する。参照されたい。
これは偶然だろうか。
それとも神の意思であろうか。
彼らの小説は多種多様であり、我々のポピュラーミュージックに似ている。
翻訳すると我々も楽しむことができる。
彼らの代表的近代小説のデータを添付する。シェイクスピアとの類似性を指摘することができる。
これは偶然だろうか。
それともシンクロニシティであろうか。
サクソフォン型は原始的な言語を持っている可能性がある。
サクソフォンでコルトレーンを演奏すると、彼らは興奮する。
多くのサクソフォン型が鳴き出し、私たちはしばらく聞いているしかなくなる。
他にも多様な楽器型生命体が存在する。
打楽器型の種類の豊富さは昆虫を想起させるほどである。
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「信じられるか?」
「信じるさ。宇宙ではどんなことでも起こり得る」