初の動力飛行
ダンマーク王国は第四回パリ万博に参加するつもりがなかった。
何せこの4回目のパリ万博はフランス革命から100年を記念するもの。
ダンマークだけではない、イギリスやドイツといった名だたる君主がいる国は参加を拒否した。
だけど、私は参加をかなり強硬に依頼しレーナを使って外務大臣を動かし、国としての参加を成し遂げた。
実際、1888年4月の飛行とその後との特許を各国に示す上でも参加はすべきだろうという国民からの支持もあったのだ。
その準備は着々と進んでいる。
パリに行っているダンマーク王国館の担当たちからはエッフェル塔という巨大な鉄塔が建てられていると情報をもらっている。
そう、あの有名なエッフェル塔が開業するのは来年。
1889年3月だ。
できることならエッフェル塔と同じタイミングで動力飛行を成功させたい。
「レーナ、進捗は?」
「大人の力も借りて、なんとかなりそうです。
テューラ様が連れてきてくれたブリストルの人たちのおかげで、ガソリンエンジンの改造も完了しました。
なんとか予定の馬力は出せると思いますが…」
「何か問題があるのね?」
「多分、グライダーより長く飛べません。」
おかしい、グライダーと違って自ら推進することで揚力を発生させるんだから、より長時間飛べるはずだが…
「搭載できる燃料に限界があるんです。
エンジン馬力の関係もあって燃料がほとんど詰めないのです」
なるほどそういうことね…
確か出せる馬力は1馬力ないと聞いている。
第二次大戦では2000馬力を超えるエンジンが出てくるようになり、ようやく大型重戦闘機が飛ぶようになったことを考えれば、10分でも動力飛行できるのは十分と言えるかもしれない。
「そういうことなのね。ところでいつ飛べそうなの?」
「来年の3月ですね。すでにテスト用の模型グライダーで飛ぶ事は確認しています」
「わかったわ。そのグライダーに乗せて練習させて」
「言われるだろうと思って準備させています」
私たちはデンマーク飛行場に向かう。
すでにグライダーが飛んだことと、この度の動力飛行のため飛行研究所が作られた。
将来も見込んで4000m級の滑走路が4本は敷けるだけの土地を抑えてある。
その一角にはテューラ飛行研究所が設立。
私の名を冠した研究所ができてしまった。
まぁコレを未来の布石にするつもりだ。
*****
1889年4月、前回のグライダー飛行から約1年。
今日は動力飛行による自力飛行のお披露目の日だ。
私はこの2ヶ月ほどは毎日研究所に通い、エンジンを載せず同じ重さのオモリを載せたグライダー機で飛行特性を練習し続けた。
おかげで体がだいぶ逞しくなった気がする。
だけど、本日の飛行についてはなんの不安もない。
すでにコンクリートによる舗装をされた滑走路には本日とぶTP−02が待機している。
いつの間にかレーナによって型式が取られたこのテスト機は諸元通り最大飛行時間10分のものだ。
現在、コレに搭載されているガソリンエンジンはブリストルで改良中。
数年以内に50馬力以上を目指すと言っていた。
わたしはそれに30年以内に2000馬力を超えて欲しいと依頼している。
「これより、世界初の動力飛行をお見せいたします!」
研究員の声が聞こえる。
今回の旗で合図を出してくれるのはレーナだ。
残念ながらこの機体にキャノピーなどはない。
鋼管を使った骨組みに、布張りの複葉、細く頼りない自転車用のタイヤが機体を支えている。
私はこの剥き出しのフレームに座り気持ち程度の安全ベルトを腰に巻く。
本当に初期の飛行機という形だ。
とはいえライトフライヤーと違い、機体形状だけでいえば現代の一般的な飛行機の形をしている。
水平尾翼は後方にあるし主翼下側にはエルロンも装備されている。
垂直尾翼も完備。
グライダーで獲得した特許技術は惜しみなく投入している。
レーナが緑の旗を振っている。
それを見た研究員の一人がプロペラを直接回してエンジンをかけ始める。
ブロロロとエンジン音がするとプロペラが回り始め、私がスロットルレバーを引くと回転数が上がっていく。
輪止めが外され機体がゆっくりと前に進む。
ラダーを操作しながらなるべく滑走路の中心を走るように調整すれば、機体は順調に加速しふわりと浮遊感が出る。
何もしなくてもちょっと浮く設計。
操縦桿を引いて左右のエルロンがきっちり動いてくることを確認すれば機体がゆっくりと上昇していく。
吹き曝しなせいで風の音がうるさいが地上で歓声が上がっているのがわかる。
よし、これで動力飛行は成功だ!
私の体重分燃料を増やしているというので15分はなんとか飛べる計算だ。
最大限見せつけるように飛ぼうじゃないか。
速度計に気をつけながら私は観客の上を旋回する。
かなり安定している。
未だ高度計は付いていないので下を見ながら飛ぶしかない。
グライダーと違ってどこへでもいけそうだ。
あっちは制約条件が多すぎて上に上がって維持するのが精一杯だったもの。
15分ほどの飛行が終わり、燃料がエンプティを指しているので滑走路へ戻る。
この飛行機にブレーキはない。
それほどの速度が出ないからだ。
滑走路に入りエンジンが止まると人がわっと寄ってきて機体を止める。
「テューラ様!お疲れ様です!!」
レーナが大興奮している。
昨日のテストフライトでも問題なかったじゃない。
彼女とハイタッチすると私は記者たちに囲まれる。
「テューラ王女、何か一言お願いします!」
記者の一人が大興奮でこちらに話しかける。
「私の今日の飛行は小さな空の旅にすぎませんが、今日から空は人類のものです。近い将来、誰もが空を使って行き交うことになるでしょう」
私の言葉は翌日新聞に載った。
レーナからは月に行った人の言葉みたいだったと言われた。
だからそれ誰なのよ…人類が月に行ったことなんて私知らないのよ?
次回から週一更新となります
歴史的事実を確認しながら進めるの大変ですよね




