第6章 ソカンリ・ジカという女
彼女はカレナードに声をかけた。
「故郷の屋敷のとは比べ物にならないわ。今年限りだけどガーランドに来て良かった!」
ケニッヒが未だ初々しいソカンリに訊いた。
「君の故郷はミセンキッタ東部丘陵キタ地方の一族だろ?キタ出身の知り合いによれば、君のように涼しげな眼の美人がいっぱいって話だ」
ソカンリは切れ長の目を伏せ、男のお世辞に落ち着き払って言った。
「明日の抽選であなたと当たりたくないわ」
ケニッヒは彼女の気の強さに面食らったようだ。
「失敬失敬。悪く思わないでくれ。君が可愛かったから口が滑った」
「私、そういうの嫌なんです」
カレナードは怒っている少女に話しかけた。
「1回目のリハーサルで一緒に第5曲を踊ったの、覚えてるかい。とても上手いと思った。ステップが軽くて素早くて、飛んでいるようだった」
彼女はダンスのことなら顔が輝き、細い眉が上がって、リンザ・レクトーを思わせた。
「ええ、紋章人さん。あなたも合わせるのが上手いわ。リードが強引じゃないのよね」
彼女はカレナードの左手を取って残念そうに言った。
「あーあ、あなたが女王さまのご予約済みでなけりゃいいのに」
あけすけな意見に男たちは目を丸くした。
ゴンドラはフル稼働していて、すぐに乗る順番が来た。2人だけ先に下ろすと警備兵が指示した。キリアンが先に行けとカレナードを押した。ソカンリとカレナードは荷物を抱えてゴンドラに乗った。
下降する間、風を感じた。
「カレナード、後夜祭はどうするの」
「新参生はずっと撤収作業の手伝いだ。」
「夏至祭の休暇中会えるかしら。デートしない?」
「僕と?」
「お願い、はぐらかさないで」
ソカンリはアーモンド形の目を見開いた。無邪気なのか媚なのか、彼は分からなかったが、魅惑的な目と思った。
カレナードの返事前にゴンドラは地上に届いた。2人は丘陵地の宿泊テントに下って行った。別れる前にソカンリは言った。
「返事はゲネプロの時でいいわ」
「いや、返事は今する。デートしよう、ソカンリ」
彼女は微笑んだ。手を振ると女子テントへ小走りに消えて行った。その姿が見えなくなるまで見送った。
「女王さまのご予約済みか…。それはそれ、これはこれ、さ。不思議な目だな、ソカンリは」
すぐにキリアンが追い付いてきた。彼はデートの件を聞き、大笑いした。
「彼女さ、真っ直ぐの黒髪にあの目が大人しそうに見えるのに。それで、デートはどこでやるんだ」
「湖の方までピクニックに行こうと思う」
「そっちは皆が遊びに行くぞ。すぐに噂になる」
「いいさ、紋章人だってデートくらいするさ」
「お前が無理してないなら、それでいいんだ」
「キリアン、そんなに僕が心配なのか」
「付きっきりで練習相手を務めたんだ。明日がゲネプロと本番だぞ。浮かれて怪我でもされたらたまらん」
「この小姑」
「うるさい、スカポンタン」
「何だって。心配性め」
「ヘン、女たらし」
言い合いながらテントに入った。ミシコが「2人とも遅いッ!」と睨んだ。その夜の設営作業の途中で出た夕食はケニッヒが言ったとおり赤カブ煮込みで、馬肉が入っていた。
夏至祭の朝が来た。天候は上々で、空の高い所に薄い雲がたなびいていた。
アレクが高台で遥か西北方向のサージ・ウォールから北方の森林地帯を観察していた。
「風が弱い。昼間は暑くなるぞ。午後2時の詠唱礼と大霊祭の儀式にちょうどいい」
横でシャルは体操をしていた。
「地上はいいなぁ。香りが濃くてホッとする」
「俺たちは半年も飛び続けて来た。故郷には帰れないが、ここで十分だ。シャル、お前はどうだ」
「俺は泳ぎたいよ。湖は入っていいだろ」
「冷たいぞ」
「いいさ、皆を誘おうぜ」
その頃、入念に仕度したカレナードはキリアンと連れだち、舞台脇で抽選に臨んでいた。艦長立会いで女性出場者が次々にくじを引いた。くじが引かれるたびに道化がパートナーの名を読み上げた。彼の両肩に付けた大きな5重フリルが揺れて、腕と尻にぶら下げたポンポン玉がぶらぶら弾んでいた。
「新参訓練生リンザ・レクトー嬢、お相手は情報部副長ジルー・トペンプーラ殿」
「十ヶ月訓練生ソカンリ・ジカ嬢、お相手は警備隊航空部テナン・ボルタ殿」
リンザもソカンリも代表の矜持を胸に、パートナーの前で丁寧なお辞儀をした。ソカンリはケニッヒの相手が決まるのを見ていた。彼のパートナーは女王区画代表のベル・チャンダルだ。
最後に一本残った赤いくじはマリラのものだ。道化は大袈裟にマリラが引いたくじを掲げた。彼は微かに厭らしい声で呼ばわった。
「女王陛下マリラ・ヴォー、お相手は新参訓練生カレナード・レブラント殿!」




