表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/183

第6章 ガーランド高揚・3

 ピード・パスリは今年もガーランドに居残るつもりだった。ヤッカは言った。

「たまには楽しんで来い。お前の分は私がカバー出来る。警備隊の隊長だからな」

「冗談はやめてください。俺はマリラさまの詠唱が終わり次第、ここに戻ります」

「踊り比べも見るといい。マリラさまの踊りを見てないだろう。この次は我々がいなくなった後かもしれんぞ」

 ピードはまだためらっていた。

「隊長、留守のガーランドを預かるのが警備隊の役目です。俺はここにいます」

「お前の事情は分かっている。私はあえて勧めるのだ。お前は見るのだ。お前と同種の苦しみを抱えた紋章人が女王の相手を務めるのを」

 隊長はピードに招待券を渡した。

「艦長に挨拶してくるといい。酒は強いだろう」

「艦長の酒蔵に子供が行っちゃ駄目です」

「お前は子供でない。ピード・パスリ、隊長命令だ。ガーランドで見かけたら逮捕するぞ」

 少年の姿の警備兵は折れた。

「分かりました。6月26日、日の出と共に戻ります」

 彼が去った後、隊長はガーランドの周囲15kmに張ったセンサーに定時のコードを走らせたのち、飛行艇ベナ・ワンに連絡した。

「南西B1とC5装置を調整してくれ。コードの反応が弱い。頼んだぞ」

通信機の向こうから、「了解」の声がした。

「ピードが自分の居場所を警備隊だけにするのはいかん。ヤツはいよいよガーランドに引きこもってしまう。なんとかせねば」

 道化は自分専用のテントを持っていた。派手で毒々しい模様は何人も入るのをためらわせた。それをわざと情報部と管制部の合同テントの横に張ったのは、トペンプーラへのちょっとした嫌がらせだった。

 テントの中は道化衣装と祭りの悪戯に使う小道具ばかりだ。

「いいですねぇ、小生は夏至祭の引き立て役!清々しい空気、マリラさまの滔々たる祈りの声、大地を踏みしめる皆さまの熱狂。夜のとばりに紛れて小生の悪さが炸裂!うっふっふ、恋人さん達の邪魔をしまくっても、なにしろ無礼講ですからね。悪さのやり放題ッ!なんつうシアワセ、にゃほほほほっ!」

 狭いテントの中を飛び跳ねていると、入り口の幕が開いた。

「ほどほどにしておきなさいね、ワイズ・フール」

「見ましたね、マイヨール・ポナ先生。生きて返さないッ!!」

「あら、怖い怖い」

彼女は軽くおどけてみせた。

「あなたの嬉しそうな笑い声、外に丸聞こえよ」

「かまいませんとも。皆さま、ご存知でいらっしゃる。この道化がいかに貴く大事な一瞬をぶち壊しに来るか。が、隙を見せる方がいけません。そう思いませんか、歴史学者さん。浮かれた隙に足元をすくいに来るヤツが必ず来るんです。祭りだからって油断大敵。そうでしょ」

「そうね。ワイングラスに唐辛子を盛られるのはまっぴらよ」

「チッ、罪のない悪戯でございますのに」

「胡椒はもったいないわよ、カローニャ領国の島でしか取れないんだから」

「お、奥の手は他にもありますから、どうぞお楽しみに。先生」

「今年の衣装を楽しみにしているわ」

 道化のテントを後にして、マイヨールはつぶやいた。

「釘の刺しかげんはこんなものかしら。今年のエンゾは訓練生をいじめ過ぎよ」

 リリィ・ティンは急速に回復していた。仕事復帰はまだだが、体力を取り戻そうとウマルと林を散歩していた。ウマルはリリィの歩調に合わせて歩いた。

「原因はレンダウィルスだ。カレナードはこのウィルスのキャリアだな。軽い風邪症状のはずだが、君には大当たりだった」

 リリィは大当たりと言われ、ムカついた。が、主治医に拗ねていられない。

「ドクトル・ウマル、私はウィルスの抗体が出来たのでしょ」

「ええ。でも抗体がいつまで有効なのか分からない。1ヶ月なのか、1年なのか。今後はカレナードと遊ぶのは控えろ」

「個人的な問題に突っ込まないでちょうだい!」

 北の大地の風が吹いた。ウマルは羽織っていたマントをリリィに掛けた。

「いらないわ。私はコートを着ているんだから」

「ダメだ。君は大事なヴィザーツだ。病み上がりの体に無理させるのではないよ」

「いらないったら」

彼女はウマルのマントを払いのけようとした。

「この件は主治医の指示に従ってもらう。勝手をするなら下船は許可しない。夏至祭当日も天候によってはテントにいてもらう。いいな」

リリィはしばらくウマルの言葉を噛みしめていた。やがて「分かったわ」と言った。

ウマルのマントは軽くて快適だった。

リリィはぽつりと言った。

「私の代わりにカレナードと彼の標本を診てくれて、助かったわ」

ウマルは彼女の両肩に手を置いた。

「君がお礼を言うとは。青天の霹靂だ」

「私はそれほど傲慢でなくてよ。カレナードとのことは反省だってしている」

「殊勝な心がけだ」

「それは嫌味なの」

「違う、本心だ」

リリィは眉をしかめた。

「あなたの本心は分かりにくい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ