第6章 ガーランド高揚・2
ハーリとヤルヴィは最後の針仕事をしていた。
「ヤル、僕の裁縫の腕もずいぶん上がったよ。ほら、出来た!」
「ハーリのウォールの模型も凄いじゃない。甲板材料部と航空部のエライ人が熱心に見ていたよ」
ハーリはヤルヴィの軍楽団の制服に待ち針を打った。彼はまだマルゴを思い出すのか、たまに無口になる時があった。ヤルヴィはわざと祭りの話題を持ち出した。
「明日は最後のリハーサルだね。また変更があるかな」
「きっとある。舞台は生ものさ。踊り手の力量に合わせて、艦長がマイク片手に指示出しまくりだもの。舞台監督だよ。おもしろいじゃん、リハーサルのたびにドラマチックになってきた」
「ドラマチック?」
「うん、3回目のリハーサルはみんな第1曲から音に乗ってて良かった」
「女王とカレナードはパートナーなのに、なぜリハーサルは一緒に踊らないのかな」
「まだ他の組はパートナーが決まってないから、気遣いってヤツだろ」
ヤルヴィは裁縫の手を止めて、身を乗り出した。
「マリラさまって意外に『お母さん』って体してないか」
「はぁッ。ヤルヴィ、お前はどこに注目して女王さまを見ているんだ」
「そんなに驚かないでよ、ハーリ。僕だって驚いたんだ。マリラさまが体の線も露わなお召し物でリハーサルに参加なさると思わなかったよ」
ハーリも少し赤くなっていた。
「確かに1回目はびっくりしたさ。でもリハーサルが始まったらそれどころじゃなかったし、あのお召し物はとても動きやすそうだったし。ダンスは凄く上手かったし。それでどこが『お母さん』なのさ」
「胸が大きいのと、腰幅が広いのと、ちょっと寸胴なのと」
「ヤルヴィ、お前、年齢詐称してないか。本当に9歳の言うことか」
「言わなかったっけ、僕は10歳だよ」
ハーリはまじまじとヤルヴィを見た。さらりと言った。
「それはマザコンのなせる業だ」
今度はヤルヴィが「はぁッ!」と返した。
「違うね。僕は冷静に観察してみただけさ」
ハーリは年上の優しさでヤルヴィをマザコン呼ばわりするのをやめたが、母が恋しいのだろうと思った。
女子棟は大騒ぎだった。
「嫌だわ、飾り帯の刺繍が足りない」
「ちょっと。私の髪飾りを勝手に持っていかないで」
「祭礼用のケープ、どこ行ったの」
「ねえ、給仕の仕事はエプロンあった方がいいかしら」
「タイツに穴が開いた!誰か予備を持ってない」
「それくらい自分で繕いなさいよッ!」
「口紅!口紅!」
女子班長たちは、祭りが始まる前に疲れ果てそうなので、軽く脅すことにした。
ミンシャは部屋の中央でゆっくり服を脱いだ。
「あンたたち、お風呂で綺麗にしないとまずいンじゃないかしら。エアシャワーは昨日から止まってるし、設営中は湯船を使う暇はないわよ。ここで清拭コードを全身に使う許可はないのよ」
乙女たちは全員ハッとした。肝心の夏至祭に汚れた肌とべとついた髪でいるのはまことにまずい。
ララとルルが「湯船のセットを用意するわ。祭り衣装を片付けて」と言った。皆が注意深く衣装をしまう中、半裸のミンシャは行程表をめくった。
「ダンスのお相手役がマヤちゃんとルルと私。持ち場は第1ブルーテント。お給仕がララとオーレリで第3レッドテント。ララがグラスを割らなきゃいいンだけど。アラートは蕎麦クレープの受け持ちで第4レッドテントね。男子V班のシャルが一緒だわ。あいつクレープ焼けるのかしら」
目の前をオーレリが髪を振り乱して横切った。
「オーレリったら、いざとなると怖いのよね。舞台の設営が終わって、当日午前中に踊り比べの最終リハーサルでしょ。その頃には仕事場に移動しなくちゃ。マリラさまが祭壇で詠唱さなる儀式は全員揃って午後2時スタートだから、身繕いできる時間は少ないわ。女子訓練生の宿泊テントを張る時にいい場所を下見しなきゃ」
ララが叫んだ。
「ミンシャー、お風呂使ってー!」
「ララ、ありがとね。あとで注意事項を伝えるからお肌の手入れでもして部屋にいてちょうだい。女子宿泊テントは場所取りの争奪戦になるわ。荷物はトランク一つにまとめて。突撃隊長はオーレリ。頼むわよ」
「あら、私に務まるかしら」
オーレリは乱れた髪で振り返った。口ぶりと裏腹にやる気たっぷりだ。
Y班の真上の部屋はまだ騒ぎが続いていた。ミンシャはちらと見上げた。
「リンザ・レクトーの班はたいへンよね。彼女の舞台補佐なンて誰がやるのかしら」
彼女は最後の下着を取って清拭コードを腰の周りに使った。それから湯船にゆっくり沈んだ。




