第6章 ガーランド高揚・1
第6章に入ります。
3週間は早々と過ぎ、ガーランドは北の台地を目前にした。
ミシコとナサールは臨時班長会のあとで展望回廊をぶらぶらしていた。ミシコが初めて見る夏至祭の聖域である湖を眺めて言った。
「あっという間だったな」
ナサールは夏至祭の行程表をめくった。
「艦長の要求によく応えた俺たち、エライ!」
ミシコはそのことじゃないと反論した。
「僕が言ってるのは強化訓練の方さ。もっと管制部に居たかったよ。講義よりおもしろいと思わないか。」
「よく言うよ。予習が足りない新参めって散々注意されていたのはどこの誰だ」
「そこがいいのさ。ところで、地上に降りても大丈夫なのか。玄街ヴィザーツの待ち伏せは嫌だぜ」
ミシコはあまり豊かでなさそうな草原地帯に目を凝らした。北上を続けた緩衝地帯より風は乾き、荒涼としていた。ナサールは言った。
「俺の故郷もここと似た所がある。痩せた土地、冷涼な気候、夏の放牧が精いっぱい。家畜の数が多いと3日で食い尽して移動さ。村の一つも出来やしない。見てみろ、この起伏の無さ、見晴らしの良さ。玄街が隠れようとしたら、穴でも掘らなきゃ。大土木工事だ」
「確かにそんな形跡はなさそうだ」
2人の前をトール・スピリッツと飛行艇の編隊が飛んだ。ヤッカ隊長機が先頭を行き、偵察のための低空飛行を始めた。
「念のための安全確認だな」
ナサールはもう一度行程表をめくった。
「明日から忙しいぞ。班で行程の確認よろしくな。10ヶ月訓練生は一生に一度のガーランド夏至祭だ。裏方は俺たち新参訓練生で務める。やり抜こうぜ」
「ああ、僕たちの無礼講は来年だ。今年は踊り比べを間近で見られるだけで幸いだ。カレナードは良くがんばったさ」
「彼の舞台補佐はキリアンでいいのか。なんなら俺でもいいんだぞ」
「お祭り男。お前は新参全体を引っ張らなきゃ。舞台袖でカレナードの面倒見るのはキリアンが適任だ。彼らは、航空部に配属された新参の中の最強コンビだから」
「艦長が踊り比べの審査団長だってさ。女王とカレナードの優勝出来レースをどう采配するか見ものだ。」
「ナサール、彼はそうしない。観客は真剣勝負が見たいものさ」
「女王崇拝者が黙ってないぞ」
低空飛行の飛行艇部隊が地上に展開し、警備隊の探索が始まった。夏至祭の設営は丸2日の予定だ。
トペンプーラは甲板材料部に出向いていた。甲板材料部の半分は地上に下ろす資材の準備に回っていた。ヒロ・マギアのチームも普段の仕事を中断していた。
トペンプーラはマギアを見つけると、歩きながら話した。
「例のモノの解析は進んでマスか」
「ぜーんぜんダーメ」
「難しいようですネ。施療棟と総合施設部から応援が来ても進まない?」
ヒロは短く刈り込んだ頭を掻いた。メガネのつるをかけ直し、彼は短いため息をついた。
「いんや、進んでることは進んでるよ。俺っちはコアにたどり着けないのがもどかしいのよ」
「ヒロ、あなたともあろう人が何にこだわっているのですか。コアがないという仮定を忘れてませんか。玄街のコードは我々のとは全く違うのですヨ」
「ああ、俺っち、煮詰まってるよ。昨日まで使えねえ新参どもの面倒見てさ、あいつらと何度ブレインストーミングしてもコード配列の順列組合せやっても、閃かない俺っちのインスピレーション。ジルーの考えを聞かせてよ」
年の近い2人は座り込み、チョークで甲板に書き付けはじめた。
「ワタクシはネ、玄街がコード配列を守っている可能性は低いと思うのデス。我々のコードと決定的な違いはその辺じゃないかと」
「確かにこっちのコードはシンプル一番を追求してるからね。おおもとは起動コードと規則性のヴァリエーションを駆使しているのがコアなんだけど、あちらは規則性に構わない可能性ね」
ヒロはチョークの図をぼんやり眺めた。
「あかん、何も浮かばない。半年これにかかりきりで俺っちの頭は真っ白よ」
「夏至祭を楽しむしかないですね。今年はいいものが見られますヨ」
「踊り比べのことか。女王と紋章人だっけ」
「それでネ、あなたにお願いがあります」
「あまり難しいこと言うなよ。ジルー」
「踊り比べが終わって無礼講が始まったら、ワタクシ、単独行でミルタ連合のベアン地方へ行きます」
「あはは、一抜けかよ」
「極秘ですから、一番小型の飛行艇を第一甲板に用意してください」
「なら噴射駆動付きのグライダーはどうよ。新開発の強化装甲付きパイロットスーツを試してみてよ」
「天候が許せばネ」
ヒロの話題はまた玄街コードに戻った。
「規則性が緩すぎるコードってのは扱いづらいと思うよ、俺っち」
「そうです、ランダムで煩雑ですネ」
「ふうん、ティンダルとかコロイドとか乱数とか、いや、ウェハース構造式というか緩く繋がる……アレだよ、アレ。隙間だらけの海綿みたいなー!」
「ヒロ、本当に煮詰まってますネ。でも今のイメージはいい線行ってるかも。では、よろしく」
トペンプーラはヒロに小さな包みを渡して帰った。包みの中は彼の大好物の固焼きケーキと艦長の祭り用酒蔵への招待券だ。
「ジルー、あいかわらず気が利くヤツ」
彼は包みを懐に入れ、設営作業を楽しむことにした。




