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第5章 リンザはラム肉を皿に盛って

「みっともない妻は耐えられない」

「めがねにかなう女性が現れたら妻帯なさいますか」

「女王以上の女性がいると思うかね、ナサール君」

 バーベキューパーティの日は快晴だった。物理バリアのおかげで、天蓋のない左舷上層テラスは穏やかだった。庭園の名にしては堅苦しくない芝生の平地が広がっていた。眺めは最高だった。西方に遠く、ロシェ大山嶺が連なり、その麓まで草色と小麦色の草原が広がっていた。いくつかの河が東方へうねって流れ、ミセンキッタ大河を目指していた。

 パーティは軍楽団から5人、教官2人、艦長の僚友4人が来ていた。その中に参謀室長ヨデラハンとマイヨール女史もいた。午前11時に新参訓練生が芝生の上で基礎レッスンを終えると、さっそくバーベキューが始まった。

 カレナードとトペンプーラはラムを焼く大きなコンロの前にいた。トペンプーラは「手際がいいですネ」と言った。炭火の上の子羊肉はあらかじめハーブと一緒に味がしみ込ませてあった。カレナードは良い加減に焼けたラムに焼き玉ねぎを添えて皿に盛っていった。

「シェナンディ工業は自社の仕事を披露するパーティをするんです。給仕やダンスのお相手から裏方の雑用まで大概のことは仕込まれました。どんな場所に出しても大丈夫なように。それが役立っているわけです」

「なるほど。でも君のダンスの才能は持って生まれたものです。好きこそものの上手なれ、と言うでしょ。飲込みは早いし、艦長から見て盗むのも早い。朝練でワタクシの動きをよく見てるでしょう」

「トペンプーラさんは強敵です」

「うふふふふふ、ワタクシは誰と組もうと9曲までは残りますよ。アナタはその先に行きなさいネ。6月に入れば、艦長のスパルタレッスンが始まります。今日くらいは遊ぶのです」

 瑞々しい女の声が呼びかけた。

「呑気なものね、紋章人」

リンザ・レクトーだった。カレナードは一皿取って、彼女に差し出した。

「どうぞ、美味しいよ」

「ありがと。さっきの基礎レッスン、あなた、いい動きしてたわ。エーリフが毎晩仕込んでいるだけあるわね」

 リンザは艦長のファーストネームを使った。そこには女のニュアンスが纏わりついていた。

「私も彼のレッスンを受けているの。すごくいいわ。ダンス教授の中でダントツよ」

彼女は焼いたラムを一切れ口に入れた。

「んん、美味しいわ」

 赤い舌で唇を舐めながら、以前とは違う視線を向けた。

「ねえ、あとで私と踊ってみない。あなたがどれくらい腕を上げたか、知りたいわ」

「女同士で踊らないと、君は宣言したはずだけど」

「あら、夏至祭で新参代表同士が踊ることはないんだから、良いチャンスよ。第7曲以降で私をうまく持ち上げたら、ライバルと認めてあげる。ここまで言われて引き下がるわけないわよね。どうよ」

 リンザはかつてカレナードを怒らせたことなど、露ほども感じてなさそうだ。それどころか自信たっぷりに挑戦状を叩きつけに来たのだった。カレナードはトペンプーラと顔を見合わせた。

 リンザは腰に手を当てて、顎を上げた。

「何よ!返事もしないで、男同士で相談するほど難しいこと言ったかしら、私」

彼女は高飛車ながら真剣だった。カレナードは同じ高飛車な女でも、リリィに比べたらリンザはダンスに純粋で、可愛いと思った。彼が承諾すると、リンザはもう一皿ラムを山盛りにして、エーリフのところへ駆けていった。

「おもしろい娘ですネ、リンザ・レクトー」

トペンプーラは新しい玉ねぎを網の上に並べた。カレナードは言った。

「負ける気がしません」

「なら、ワタクシは高みの見物としゃれ込みましょう」

「だめですヨ、トペンプーラさん。僕の踊りをチェックしてください。直すところがいっぱいあるはずですから」

「今日は遊ぶはずだったのですけど。ま、いいでしょう。さっさと腹ごしらえしなさい、カレナード」

 久しぶりの御馳走にありついた新参生に、艦長はデザートも出した。それも終わると、軍楽団のメンバーにヤルヴィとハーリが加わり、リンザと艦長は腕組みして「新参代表を中心にした踊り比べのデモをやる」と呼ばわった。

 ミンシャはあきれていた。

「もともとお高い女だけど、リンザは艦長のお気に入りになったンだわ。イヤらしいンだか、たくましいンだか」

ミシコは竹を割ったようなミンシャも同性を揶揄する気持ちがあると知り、安堵に似た気持ちで言った。

「僕たちもデモに出よう。君はリンザより魅力的さ」

「そうね、見せつけてやらなきゃ」

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