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第5章 伝説の領国・トルチフ

 ララとルルとアラートが役目を引き受けた。

「1500年の昔、東トルチフ領国主と西トルチフ領国主がいて、2人はけっこう仲よしだったのに、ある時喧嘩になりました。ルル、喧嘩の元は何だったの?」

「領国境界の谷間で見つかったスゴイ金属鉱脈のせいよ。兄も弟も谷を独占しようと大喧嘩!これは調停すべき案件のはず。ね、アラート」

「ルル、それは当事者か決める事よ。当時の当事者はガーランドを呼ばなかった。調停を考えた時には遅かった。闘いを繰り返し、双方の憎しみは募り、収集不能状態。領国の政治に不干渉を貫くガーランドもこの時ばかりは、積極的に調停を勧めた。2年間説得を試みたが、兄弟領国主の対立は深まるばかり。双子さん、エピローグをどうぞ」

ララとルルは両トルチフの滅亡を語った。

「女王説得の甲斐もなく、兄弟同士で殺し合うとは何事ぞ。お怒りになった女王はガーランドの全砲門を両トルチフに向けて仰った。7日間の猶予をやる、領国民は逃げるがよい。調停の力を軽んじる者の最期をアナザーアメリカにしらしめよ。かくして7日目の夕刻、東西トルチフは灰燼に帰すまでガーランドの火に焼かれ滅亡しました。ヴィザーツがアナザーアメリカンに武力行使した唯一にして最大の事件でございます」

 マイヨールはカレナードにアナザーアメリカンの見解を述べるよう頼んだ。

「アナザーアメリカンの間ではトルチフの大火伝説として広く知られています。

 その昔、大河の西方、東トルチフと西トルチフの兄弟領国がガーランドの調停を拒否し暴争を始めた。女王の数十回の勧告にも応じず、二つの領国は互いに殺し合い、最後はガーランドの火によって滅んだ。その土地に領国が再び成立することはなかったと語られます。

 アナザーアメリカンの子供は『暴争はトルチフの火を招く』という警句と一緒にこの伝説を聞いて育つのです」

 訓練生の何人かはアナザーアメリカンから聞いた伝説は自分の出身地では少々違うと言った。ミセンキッタ中部出身の少年は、両トルチフの領主が兄弟ではなく父と息子だと言い、ミルタ連合出身の少女は女王が領主に侮辱を受けて怒ったと言い、マルバラ領国では猶予は5日だと言った。

 マイヨールは伝説にはバリエーションが発生すると説明した。

「理由は分りますか」

カレナードは先日聞いたマイヨールの言葉を小さくつぶやいた。

「伝説とは語り継がれた事実だからだ。事実の根幹は変わらなくても、細部はアナザーアメリカンの想像力で変わっていったんだ」

 ヤルヴィが勢いよく手を上げた。彼が答えている間、カレナードはキリアンにそっと尋ねた。

「ヴィザーツの間では事件なんだな」

「屋敷の学堂スコラの授業で必ず歴史上の大事件として学ぶんだ」

「わざわざ現地に来るのはそのためか」

「ああ、ヴィザーツにとってここは過ちの場所だ。どんな理由があれ、アナザーアメリカンに使ってはならない武力を使ってしまった。それを忘れないために毎年春分のあと慰霊祭をすると父が言ってたよ」

 マイヨールの声が耳に入って来た。

「トルチフ大火は今なお女王が悔やんでいる事件です。

 事実上は戦争介入で、ガーランドが取った方法は最悪でしたからね。

 トルチフの二の舞は避けねばなりません。ゆえに我々と玄街の戦いは周到な準備と計画が必要でしょう。トルチフはアナザーアメリカンにもヴィザーツにも教訓を残す土地なのです」

 上空から見るトルチフの台地は乾いていた。だが、谷間には日に日に濃くなっていく緑があり、遊牧民のテントと入植者のコロニーが点在していた。こののどかな風景がかつては炎に包まれていたのだ。

 カレナードは想像した。たしかにトルチフ領国再建は不可能だったろう。ヴィザーツに焼かれることは、アナザーアメリカンには最強の呪いをかけられるに等しかっただろう。

 彼は小さなコロニーがかつてのトルチフの子孫なのか訊いた。マイヨールはトルチフの民は大部分がミセンキッタの大河西岸で開拓民となったと答えた。そして、その子孫がここに戻ってコロニーを作っている可能性はあると言った。

「あなたは過去と現在の強い関連性を考えています。新しい事象が歴史を一変させることに注意してご覧なさい」


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