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第4章 もう一人の知己を得る

 トペンプーラはハーリに封筒を手渡した。数枚の写真の中の最も大きな一枚にマルゴとハーリが並んでいた。マルゴは心から笑っていた。ハーリの口から言葉が漏れた。

「これ、僕が新参訓練生入隊時に、記念に撮ったのです。姉さんの葬儀は終わったのですか」

「ええ、ポルトバスクのヴィザーツ屋敷でネ。埋葬は故郷で」

「僕は親戚なのに呼ばれなかった。仕方がなかったのですか、トペンプーラさん」

「彼女、あなたのことは我々に隠していました。あなたを巻き込みたくなかったのでしょうネ。冷たいと思わないで。マルゴにとって、あなたは大切な人だったのでしょう。あなたにとってもネ。あなたが一人前になれば彼女の気持ちが分かるでしょう」

 カレナードはヤルヴィとハーリに先に帰るよう促した。

「この前の誤認逮捕のことで、トペンプーラさんに話があるから」

 副長とカレナードは2階のベランダに出た。ハーリとヤルヴィの後ろ姿を見送った。

「君の手紙……ソルゼニン君を納得させたうえで、マルゴの正体は伏せることで良かったのデスね」

「ありがとうございました。ハーリが落ち着いてくれるといいですが」

「君は代役をやってのけたから、これくらい当然です。手紙の封蝋は情報部のほかの人間に見られちゃマズイからでしょ。けど、あれは目立ちます。他の手を教えましょうか」

「それよりマルゴさんは本当のところ、どうなのですか」

 トペンプーラはおやおやと呆れた。

「知ってどうするおつもり。生きてると言えば、いずれソルゼニン君にバラすかもしれません。死んだと言えば、謀殺の可能性を勘繰りたくなる。君は何も知らないでいてください。 下手に足を突っ込まないのが賢い訓練生です。チャンダル女官も同じ警告をしたはずです」

「非情でなければならないのですか」

「玄街との戦いは情で動けば我が身が滅ぶどころかガーランドを危うくします。仕事は仕事、情は情で分けなきゃいけません。そこのところ、君は訓練が要りますネ。いっそ情報部所属になって裏側をたっぷり知る手もありますが、その前にヴィザーツの経験を積まなくては。紋章人で、独立遊撃隊候補生の話もある。なかなか難しい立場ですネ」

「先日、マイヨール先生と話しました。アナザーアメリカンがヴィザーツになるのは難しいことじゃないと。僕の問題は他にあるのだと……」

 トペンプーラは黙って頷いた。しばらくして、ぽつりと言った。

「分かります。あの方のことでしょ。さっき言ったとおりです。気に病んでいないでしっかり進みなさい。ワタクシは君を応援しますヨ。君が嫌でなければ、歳の離れた友人でいたいですが、どうでしょ」

 カレナードは驚いた。 マイヨールに続き、トペンプーラが友人になるというのだ。

「僕はあなたに謝っておかねばなりません。宣誓を破ってマダム・マイヨールに代役任務を話しました。彼女はあなたと同じことを僕に言いました。歳の離れた友人にと」

トペンプーラは苦笑した。

「告白相手に聡明なマイヨール女史を選んだのは正解です。宣誓を破った件については、いずれ君に情報部のイロハを叩きこみマス。で、ワタクシの申し出に何と答えてくれますか、レブラント君」

カレナードは手を差し出した。

「喜んで。トペンプーラさん」

 上層天蓋が音を立てて、閉じ始めた。ガーランドはニオララから東へ転進しつつあった。また嵐が近づいていた。情報部副長は独りごとのように言った。

「今年のトルチフ詣では少し早い。女王がトルチフのことで御自分をお責めになる時期ですネ」

「トルチフ詣でって、あの伝説の東西トルチフ領国がまだあるのですか」

「まさか。炎に沈んだ両領国の遺構を訪ね、慰霊祭をするのです。もちろんガーランドの甲板でネ」

「ああ、地上に降りるのかと思いました。あの禁忌の土地に……」

 トペンプーラは少年の反応をおもしろがった。

「確かにトルチフ台地はあまりありがたくない場所ですが、近頃はかなりの入植者がいます。伝説の畏れより開拓の勇気ですネ」

「時代が変わっているのですか」

「あなたはトルチフ伝説が怖いですか」

「いいえ。でも、教訓としての恐ろしさは感じます」

「トルチフを焼いたのがガーランド女王だからデスか」

 トペンプーラの問いにカレナードの眉がピクリと動いた。

 カレナードを帰してからトペンプーラはため息をついた。

「恐怖による支配ですネ。女王は最初から彼を恐怖で支配しようとしたのかしら。

 なぜだか分りませんが、出会った瞬間に2人の間にその力学が働いてしまった。不幸ですネ。その不幸が代役作戦ではプラスの力になりましたが、この先どうしたものでしょう。

 私がお膳立てしたところで、上手くいくワケない。マリラさまは玄街を相手にするより難しいのですから。

 それにしても、おもしろい友人が出来ました。これからが愉しみです」

 彼は情報部区画に茂る木立に目をやった。お気に入りの風景だった。ガーランドは新緑の中にあり、天蓋が閉じるまで、木々の若葉は軟らかい音を立て小雨の恵みを受けていた。カレナードはその下を走っていた。葉の隙間から落ちる水滴を振り払うような疾走だった。

 やがて空には稲妻が走り、休日の終わりまで浮き船は嵐と共に東へ移動していった。

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