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第4章 ハーリと優しい嘘

 ミシコ、キリアン、カレナードは部屋で片付けをした。休日の前日に済ませるルールで、うるさいシャルの不在がありがたい。キリアンが窓を全部開けた。

「天蓋が開いてる。ブルネスカもこんな穏やかな日があるんだ」

 ミシコとカレナードは開いた窓に次々と布団を掛けた。ベッドの下に落ちっぱなしの靴下やタオルや本を各自の籠に放り込むと、キリアンが待ってましたと床の範囲指定をして、清拭コードを唱えた。

 ミシコがシャルの枕の下から古い写真を見つけた。

「あいつ、こういうのが趣味なのかな」

写真で小さな帽子以外何も身につけてない青年が澄まし顔のポーズを決めている。 3人であれこれ言い合ったあげく、写真を元に戻した。

「見なかったことにしよう、班長」

「もちろんさ。唯美主義者の面子を潰すと怖いからな」

 彼らは気持ちよく仕事に戻った。カレナードはゴミ箱を詰所の集積所へ持って行った。書き損じのレポート用紙は熟練のヴィザーツがコードを駆使して真新しい紙に甦る。

 ふと人の気配に振り向いた。暮れかけた光の中にハーリ・ソルゼニンの姿があった。彼はひどく生気がなかった。

「どうしたんだい、ハーリ」

カレナードが話しかけても、彼はすぐに口がきけなかった。

「T班の班長を呼んでくるよ。それとも一緒に部屋に行くかい」

 ハーリは突然泣き崩れた。4階のベランダでミシコが何事かと窓から身を乗り出した。

「マルゴ姉さんが死んじゃった……マルゴ姉さんが!」

 カレナードはギクッとした。彼女が玄街間諜で暗殺者だったことも、情報部が取り調べ中のことも、彼は黙っていた。この秘密は一切漏らさなかったが、ハーリの言葉は衝撃だった。

「ハーリ。何かの間違いじゃないのか」

「姉さんはガーランドを降りて地上勤務になるから、部屋に来るなって言われて……でも、もう一度会いたくて、さっき行ったら情報部員が部屋を片付けてた。姉さんの事を聞いたんだ……そしたらマルゴ・アングレーは死んだって言うんだ」

「そんな……」

カレナードは、トペンプーラが洗いざらい喋らせたのち彼女を殺したのかと考えた。おぞましさにぞっとし、すぐに否定した。いくら情報部でもそんなに簡単に人を始末出来るものではないと思った。

 ハーリはしゃくりあげた。

「あの人たち、何も教えてくれないんだ、マルゴ姉さんがどうして死んだのか、告別式をするのか……。僕を追い出して、何も持ち出させてくれないんだ……」

 階上からT班班長ホーン・ブロイスガーが降りて来て、ハーリを連れて行った。話を聞いたヤルヴィはカレナードに相談を持ちかけた。

「カレナードは情報部は気持ちのいい所じゃないだろうけど、何日か居て顔見知りが出来たでしょ。だからさ、こっそりマルゴさんのこと聞いて欲しいんだ。ハーリは納得したいんだよ。顔も見ずにお別れするの辛いじゃない。彼はすごくすごくすごくあの人のことが好きだったんだ」

「それはそうだね……」

 カレナードはトペンプーラが応じたとして、ハーリにマルゴの正体を明かして、彼が余計に傷つくのだけは避けたかった。

「ヤルヴィの封蝋を貸してくれないかな。ハーリのために」

彼はトペンプーラ宛の手紙を書き、封蝋をして情報部へ行った。

 休日の午後、彼はハーリとヤルヴィを伴い、情報部区画を訪れた。元気のないハーリだが、彼はカレナードに言った。

「ありがとう、カレナード。お休みを潰しちゃったね」

「僕が捕まった時、ハーリもマルゴさんの所に行ってくれた。僕はまだお礼を言ってなかった」

「ううん、僕は姉さんに会える口実が出来て嬉しかったんだよ」

 ヤルヴィは少々心配顔だった。

「アダン家の印璽が通用すると思うかい、カレナード」

「封蝋を使ったのは、相手が情報部副長だからだよ。物々しい手紙の意味が分かる人だから。最も差出人は僕だから、追い返されるかもしれない。覚悟してて」

 エントランスでトペンプーラが本を読みながら待っていた。

「素敵な印璽でしたヨ、ヤルヴィ・アダン君。早速ですが、御友人のお尋ねに答えましょうネ」

 カレナードはいつもどおりのトペンプーラに手紙が十分役目を果たしたと感じた。

「ハーリ・ソルゼニン、マルゴ・アングレーは病死しました。残念なことに彼女が心臓に病気があるとは本人も気づいてなかったのです。彼女は次の仕事のためにポルトバスク市でガーランドを降りました。情報部の仕事ですから詳しく言えないのを許して下さいネ、ハーリ」

 ハーリは頷いた。トペンプーラは丁寧に言った。

「彼女はヴィザーツ屋敷に向かう途中で、突然倒れたそうです。同行者が医療コードを施しましたが、夜まで持たず、意識は回復しないままだったそうです。

 ソルゼニン君、情報部員が君を彼女の部屋から追い出したのは本当に失礼でした。マルゴ嬢は有能でネ、持ち物を一つ一つ検討する必要があったのですが、君には辛かったでしょう」

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