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第1章 創世の伝説

 15歳の誕生日、彼はアレニア奨学生試験に挑むと決めた。高等学校の費用はシェナンディが肩代わりしたからだ。彼はシェナンディ家の図書室で自習した。

 図書室使用を許可したフロリヤは淑女のように象嵌の櫛を挿す乙女になっていた。彼女は足音を立てずに近寄り、カレナードを驚かせるのが得意だ。

「高等学校の授業は奨学生試験に足りないのね」と訊いた。 

「修辞と歴史地理と文芸全般はこの図書室で補います。

 先日、領国府の偉い人と話しました。トルチフ大火伝説や古典劇の台詞、各領国の歴史、例祭の伝承など、世間話のふりして彼らは僕を試していたのです。あとで冷や汗が出ました」

「それくらい十分やれるでしょう。

 マヤルカはあなたの邪魔してない?彼女、オルシニバレ医科大学付属校の転入試験に合格したものだから。

 私は産院で誕生呪見届け人のボランティアを務めるわ」

 彼女の声には不思議な気迫があった。

「私はずっと考えていた。犬も鳩も誕生呪なしで平気なのに、ヒトはヴィザーツの誕生呪が必要とする。理由があるはず。だから産院で確かめるのよ」

 それは父の知るところとなり、彼女は取引先の飛行機開発会社でテストパイロットもやると告げた。シェナンディは大笑いした。

「わしの娘はこうでなくては!豪気な女だ!」

カレナードはそんなシェナンディの父親ぶりが好きだった。

 フロリヤは新調した飛行服姿で鏡の前に立った。マヤルカが部屋に入ると、ゴーグルを付けてくるりと回ってみせた。

「産院は刺激的だわ。普段会えないような人ばかり、特にヴィザーツの方々ね。ただ、ヴィザーツとは言葉を交わせないのが残念」

マヤルカは赤毛を両耳の上で結んでなびかせていた。

「お姉さま。アナザーアメリカンから話かけるのは禁忌なの、ご存じよね。あちらは特別な人たちよ」

調停機関セントリーで誕生呪を唱える人たちだから?」

「当たり前でしょ!私たちはヴィザーツの特別な御力のおかげで生きてるのよ。お姉さまは何を考えてるんだか。まぁ、女の飛行機乗りも珍しいけど」

「学校の射撃部を選んだ妹に言われたくないわ。今は時代の変わり目なの。軌道列車の次は自動車、自動車の次は飛行機の時代よ。嵐環壁サージ・ウォールに囲まれていても、アナザーアメリカは広いわ。私は自分で飛びたいの」

「3000メートルは駄目よ。北メイス領国の命知らずがサージ・ウォールに挑戦してたくさん墜落したってラジオで聴いたもの」

「あそこはウォールに近いから、飛び越えたくもなるでしょう。3000メートルに達するとエンジンが勝手に止まるのよ。原因が分からないなら禁忌と同じね」

「創生伝説ではウォールから浮き船が現れたって。本当かしら」

「ええ。伝説は歴史上の事実を語り継いだものだから」

 フロリヤは創生伝説の一節を諳んじた。

『昔、ヒトは大地に満ち、世を作物と火と鉄で満たし、さらに汚濁と毒で満たして大地の精霊を踏みつけた。精霊はヒトが交感を断ったと怒り、世を嵐の中に沈めた。嵐の後に訪れしは青き夜なり。

 一人の女が大地精霊の力を以てサージ・ウォールより浮き船を呼んだ。僅かに残りしヒトはそれに乗り、アナザーアメリカの祖となった』

 マヤルカが続けた。

『女はサージ・ウォールに囲まれた大地をあまねく廻り、調停船の船主となれり。不死女王マリラ・ヴォーなり』

「女王は同じ名を受継いでいるのかしら。不死なんてあり得ないもの」

「お姉さま、それを考えるのは禁忌に抵触じゃない?」

「それより落第しないようにね。医科大学進級はアレニア奨学生試験以上に難しいわよ」

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