第3章 ヌーディスト・ビーチ?
「女王の変調は彼をガーランドに置いたからと?」
「当たらずとも遠からずでしょう。ところで、お茶が冷めました。替わりに1杯いかがです」
エーリフは酒瓶を取り出した。
「結構ですわ。私は真昼間からはいただきません」
「では、次は夜分においでなさい」
夜分に来たら私を食べるつもりね。女王がエーリフを袖にした理由が分かるわ。恋愛が若者の特権ではなくても、艦長のつまみぐいの相手なんて真っ平よ。
その日の夕刻、ジーナは大宮殿女王控え室の鍵を回し、カレナードを落ち着いた調度品の中へ導いた。
「10年前のあなたと女王の出会いを詳しく知りたいのです」
カレナードは素直になろうと努めた。ジーナは彼がマリラにもともと深い尊敬と憧れを抱いていると知った。しかし、ガーランドに乗ってから、それらがたいそう揺らいでいると感じた。
「女王の贈り物はもう口にしましたか」
「ほとんど友人たちに分けました。友人の1人がちゃんと受け取れと叱ってくれました。今思うと申し訳ないことをしました」
「少し痩せましたね。あなたを人形に仕立てたのは、あのような目に合わすためではなかったのです。マリラさまも悔いておられました」
カレナードの目に少しだけ安堵が現れた。ジーナは問うた。
「マリラさまが再びあなたを召せば、応じますか」
「……はい、お役に立てることがあれば」
ためらいはあるが、少年は女王を尊んでいたいと分かった。それで十分とジーナは思った。
ガーランドはミセンキッタ領国北部の湖水地方に向けて南下を始めた。儀式を玄街に悩まされたくないエーリフの作戦だ。5つの巨大な湖は天然の防衛地であり、その上空で玄街の攻撃を受ける確率は低い。
3月は有事訓練が始まった。新参訓練生は退艦とサバイバル訓練が課された。シャル・ブロスは3年生の兄が歩兵隊と一緒に船内にバリケードを築き、コードを駆使して訓練に参加しているのを羨ましがった。
「新参は足手まといじゃないぞ。後方支援くらい出来るのにさぁ」
「言うなよ、シャル。僕達はまだ銃器の扱いは不十分だし、コードの種類も半端だ。邪魔しないのも大切なことだ。なぁ、カレナード」
「うん。僕達が半人前のまま死んだら将来の人材が減るし、まだ死にたくない」
彼は訓練用地図を広げ、退艦後の脱出ルートを探索した。
「川沿いに下れば必ず町がある。降下地点を外れて一人きりになったらどうする、ヤルヴィ」
「の、狼煙を上げる」
「何色の狼煙を」
「赤は『その地点に留まる』、青は『一番近い仲間に返事を請う』だ」
「狼煙に何の返事がなかったときはどうする」
「僕は嫌だよ、そういうの。」
ミシコが「嫌で済む事態じゃないぞ」とたしなめた。
「君ならどうする、キリアン」
「ああ、着地に失敗してパンツが脱げたら単独行動だ」
「違うな。パンツが濡れたら単独行動だ」
アレクがこともなげに言って2人は笑い転げた。
カレナードが「緊急事態のオレンジ3連射」と言って、急に立った。
「始まったみたいだ」
V班の面々はきょとんとした。アレクだけがうなずいた。
「レバーパテを食うか」
「うん。今日の訓練が終わったら」
カレナードが教室を出てから、残りのメンバーは気づいた。アレクが言った。
「1ヶ月経ったんだ。正確には28日だけど」
班長は机上の脱出ルートから逸れた。
「そろそろ彼の誕生日だな、祝ってやろう。ところで、その日数に意味があるのか、アレク」
「月経周期が28日と30日のタイプが多いんだよ。他にもあるが」
「何で知ってるんだよ」
「姉貴が3人に母親に叔母連中が2人に従姉妹が7人も同居しててみろ。彼女たちにたっぷり教えられる。集団の威力ってところだな」
シャルは身震いした。
「お、俺は耐えられねえ。そんな女地獄。班長はどんなだよ」
「オープンな女系一家もいいな。僕の所は家族単位で暮らしてたから、大家族にはちょっと憧れがある」
キリアンも相槌を打った。
「アルプの屋敷も家族単位だったけど、解放感はあったな」
ヤルヴィが訊いた。
「どのあたりが解放的だったの」
「湖に面してて、短い夏にはみんな素っ裸で泳いだ」
ミシコとアレクが声を揃えた。
「ヌーディストビーチ!」
教官は彼らを叱った。




