第2章 キリアン、告白する
キリアンは正面からカレナードを見た。
「君と同じだ。僕にはヴィザーツの血は一滴も流れてないんだ」
「いつ知った……」
キリアンは寂しそうに微笑んだ。
「ガーランドに来る前、家を離れる前日だ。両親が教えてくれた。助産所にたどり着けなくて、僕を生んで死んだ人のことを」
「君はアナザーアメリカンなんだ」
「……そうだ。信じられなかった。嘘じゃないかと何度も思った…。君が来たとき、僕は怖かったんだ。いつか皆に知られてしまう……そしたら何もかも終わりのような気がしていた」
カレナードはキリアンの翳りの正体を知った。
「……アナザーアメリカンにはない義務と使命を強固に身に着けた生き方、それがヴィザーツだ。良しにつけ悪しきにつけ、多くがアナザーアメリカンに対して優越感や驕りを持っている。外れのヴィザーツにもあることだ。
賢明なヴィザーツはアナザーアメリカンを馬鹿にしない。でも、僕は十分すぎるほど半人前だった、あまりにも愚かだった。自分の思い上がりに頼っていたんだ!」
彼が受けた衝撃は両親が想像した以上に深く彼を傷つけた。そして、カレナードの出現が彼をますます不安定にした。カレナードは訊いた。
「そのアナザーアメリカンの女性について、ご両親は話してくれたのか」
キリアンは頷いた。
「名はエリ、それだけだ。それしか分からなかった。その人は身分証さえ持ってなかったんだ。
両親が飛行艇から見つけた時には、もう駄目だったって。
医療コードを使えないくらい弱っていたって。
ありったけの毛織物で僕を包んでいたって。
何か事情があったんだろうって。
キリアンって名前はその人が付けたって。多分、僕の父親の名前だって」
カレナードはキリアンが言うに任せた。彼は泣いていた。
「なぜ、もっと早く教えてくれなかったんだろう。僕は両親に手紙が書けない。ガーランドに来てからずっと書けない。何も書けないんだ……ただの一行さえ…。
ああ、僕は何を話しているんだ。君に心から謝りたかったのに、カレナード・レブラント、僕はいったい……」
カレナードはキリアンの肩に手を置き、横に並んだ。
「キリアン、僕も話したいことがある。
僕はずっと父と旅をして育った。6歳の誕生日に父は僕をオルシニバレ市の寄宿学校へ入れると言った。捨てられると思い込んで大喧嘩した。父は山中で野営して別々の場所に火を焚いた。1人になって頭を冷やせということだったんだ。夜明けに父のテントは土砂崩れにあった。地質学者なのに……土に埋もれて死んだ。
長い間、僕は後悔していた。もし喧嘩しなかったら……もっと馬車を進めていたら…。あの時はただ悲しいだけだった。時がたつほど父に謝りたくて……」
キリアンは訊くともなしに訊いた。
「誰かに話したことがあるのか」
カレナードは首を振った。
「いや、君が初めてだ。幼かったから、すぐ新しい生活に慣れて……忘れたつもりでいた。ガーランドに乗って、飛行艇からサージ・ウォールを見てて気付いたんだ。誰かの慈しみがあって、父がいなくても、彼が僕に持ちこたえられるだけのものを残してくれた。
なぁ、キリアン。君も僕も誰かの慈しみをもらって生き延びたんだ。君はアルプのご両親を好きか」
「ああ」
彼が頷くと大粒の涙が落ちた。
「じゃあ、手紙を書くんだ。貴方たちの自慢の息子は少しも船酔いしてないって」
「ああ」
「男子V班副班長の務めをちゃんと果たしているって」
「ああ」
「飛行艇の演習は計器チェックと航路設定をやってのけてるって」
「ああ」
「それから、編入生がいい友人になれそうだって言ってるって」
キリアンはカレナードを見て、誇らしく頷いた。
「ああ」
「それで、その友人の下履きに手を突っ込んで泣かせてやったって」
「あ、お…おいっ!」
キリアンの頬は涙と羞恥で朱色になった。
「お前、全くなんてヒドイ奴だ!」
カレナードは笑いをこらえていたが、とうとう吹き出した。キリアンも笑うしかなかった。
2人は互いの肩に腕を回した。キリアンが言った。
「改めて、よろしく。カレナード・レブラント。君にしたことを許してくれるか」
「ああ。僕は君にだけ心を開かずにいた。申し訳なかった、キリアン・レー」
キリアンの腕は、以前シャワー室で見たカレナードの肩がこれ以上華奢になるまいと抵抗しているのを感じた。彼は友人のために出来ることがあれば、何でも力になってやろうと思った。




