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第2章 アナザーアメリカの秘密

 週明けの朝、カレナードとマヤルカは甲板材料部開発局にいた。技術開発主任ヒロ・マギアの部屋は素材見本で埋まっていた。


 ヒロは眼鏡の竹製ツルを人差し指でクイッと上げた。

「紋章人、起動コードを正確に発声できるアナザーアメリカン。会えて光栄だ。オレッちは『習うより慣れろ』と言いたい。そこで君たちに確認だ。分子について説明できる?」

マヤルカは少々ムッとした。

「マギア主任、医科大学付属学校では入学試験の段階で化学反応式とモル計算が必須です。顕微鏡で皮膚細胞のスケッチもしたわ」

ヒロは両手を上げ、「すまない。君たちに基礎があると、こちらも助かる」と笑った。


 ヒロはカレナードの質問攻めにあった。

「主任、昨日、初めて臨界空間内のナノマシン音声入力制御法を知りました。なぜ眼に見えないのにナノマシンの存在が分かったのですか」

「それは創生期のことを言ってるの?」

カレナードは真顔でうなずいた。

「紋章人の着眼点はおもしろいね。ぶっちゃけ教えておくと、創生前から日常的にナノマシンは使われてた。それを制御する技術は現在とは全く違ってて、創生の大惨事で完全に途絶えたと女王陛下は書き残しておられるよ」

「女王はその……失われた技術をご存じなのですか」

「ご存知だったら、今に伝わって我々は使っているはずだよ。彼女は技術の基礎知識はあったが、専門家でなかったからね」


 マヤルカが訊いた。

「創生に何の大惨事があったのですか。伝説では嵐があったとだけで」

「ああ、アナザーアメリカンにはぼかして伝わってるんだ。それでいい。

 女王は何者かがナノマシン音声制御を試験運用して失敗したか、悪意をもって世界中の通信回路に流したかで、ナノ物質のエネルギー暴走が起こったと推定している。その暴走の行き止まりがサージ・ウォールだ。今でもウォールのエネルギーは潰えてない。

 君たちはあれの形が円環と知っているね。その中心はどこ?」


カレナードは壁の地図を見た。

「ミセンキッタ領国の首都のテネ城市あたりかと」

「そう。2500年前、女王はテネ郊外の嵐の起爆地点にいたんだ。その頃、ミセンキッタ大河はミシシッピと呼ばれてたらしい。

 その辺は午後の歴史教師の部屋で聴いてもらうから、今からはオレっちの専門をやる。いいな?」


 カレナードの疑問はいくらでも湧いたが、ヒロはもう受けつけなかった。

「君たちの最小単位がミクロンで、毛髪1本が100ミクロン、お肌の表皮細胞1個が10から20ミクロン。

 一方、ヴィザーツの最小単位はミクロンの1000分の1で単位はナノだ。だいたい分子1個の大きさ、目視不可能だ。その分子単位で物質を操る必要があった。

 誕生呪だよ。あれがなければ人間は死に絶えていた。

 紋章人、君は誕生呪について少しは考えがあるだろ?それとも考え無しで覚えたのかい?」

「赤ん坊が空気と一緒に初めてナノマシンを吸った時、肺に順応しないから充分に呼吸できない。体に入ったナノマシンを順応させるために誕生呪が必要なのでしょう?」

ヒロは軽くうなずいた。

「それでだいたい合ってる。誕生呪は起動コードだからね。ナノマシンは数百種類あって、空気中のどれが肺嚢に取付いて組織を活性化させるかは不明のままだ」

「そんなにナノマシンだらけなのですか……」

 カレナードは大きく息を吸ってみた。ヒロはあっけらかんと言った。

「心配ないよ、ナノマシンは大気中の窒素と分子間力結合の状態で安定している。制御を間違わなければ無害だ。それでだ。君たちに覚悟を問う」

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