第2章 女の園
彼は私服のセーターとズボンを脱ぎ、下着になった。まず中着をつけ、さらに薄灰色の実習服を着てベルトをした。左肩に新参を示す水色の階級章があり、エメラルドグリーンと蛍光ピンクと紫色のパイピングが襟元から足首までを飾っていた。実習服の裾をブーツに入れた。
「ブーツと襟と袖口に固定コードをかけるんだ。服の方にコードの作用域を設定してあるから、範囲指定なしで大丈夫。
Ri.antue.igy.veryadoer.リ・アンツェ・イギ・ブヤドゥ」
彼の声に反応し、作用域はたちまち密着した。カレナードは少々戸惑った。シャルが説明した。
「新参の清掃実習はナノマシンの滓まみれになる。滓も一定量を超えると体質によってはアレルギーが出る。服の隙間からの流入を抑えなきゃ。ま、予防策だよ」
カレナードは訊いた。
「ナノ…マシン?滓を出すものなんだ」
シャルとヤルヴィは事の重大さを瞬時に悟った。カレナードはヴィザーツの常識が備わってない。
シャルは焦らず始めることにした。
「ナノマシンは目視できないほど小さいが、よく働く便利な道具だ。サージ・ウォールに囲まれた臨界空間、すなわちアナザーアメリカの空間に満ちている。自己再生機能を持っていて、古いナノマシンは滓になる。ここまでで質問ある?」
「そのナノマシンをコードで操っているのか」
「お前、飲みこみが早いな。正式には音声入力制御と言うんだ。固定コードは使えるか」
「僕が知ってるのは誕生呪だけだ」
「そうか。誕生呪を発声できるなら基礎的なコードは簡単さ、着替えてくれ。明日から特別講義でマキ教官が基本からみっちり教えてくれるさ。発音記号は読めるだろ」
カレナードはベッドのカーテンを閉めて着替え始めた。シャルが「おい、何の遠慮だ。着替えにカーテンが要るのか」と覗いた。カレナードはスボン下とコルセット姿で振り向いた。咄嗟の嘘が出た。
「む、胸に怪我をしてるんだ。医者にこうしてろって言われて」
「その怪我は玄街のせいか」
「ああ、見られたものじゃない」
カレナードはハッとした。マヤルカは女子棟でどうなっているのか。
彼女の場合は隠す間もなく露見した。
女子Y班の5人は正装し、茶と蜂蜜が香る歓待を用意していた。双子のララとルル・ケラーはマヤルカを両側から抱きしめていた。
「マヤルカはなんて凄いの。禁忌を恐れないなんて!」
オーレリ・ラドがおっとりと班長に提案した。
「ねぇ、ミンシャ・デライラ、彼女が手紙を出せるよう管理棟に頼んで。オルシニバレ屋敷経由でもご家族に連絡すべきよね」
ミンシャは指を鳴らした。
「オーレリ。あンたのそういうところ好きよ」
オーレリは優雅に腕を差し出し、マヤルカの頬に触れた。
「お肌を手入れしてあげたいわ。アラート。あなたのオイルは最高よ」
「任せてよ。その辺を片付けて!」
アラート・ノアゼットがマヤルカの首にケープをかけ、瓶から芳しく香るオイルを手にとった。ララとルルが立ち上がった。
「あ、ずるいずるい!アラートったら。私たちも付けてあげるわ」
双子はアラートの指導通りにマヤルカの腕をオイルで揉んだ。濃いラベンダーの芳香がマヤルカを酔わせた。ミンシャは優しい眼で訊いた。
「で、マヤちゃン。玄街の呪いって何なンだい」
「そ…それは…それは…あの……私」
マヤルカは隠しきれなかった。甘い香りの女の園は張り詰めていた心を溶かし、彼女は涙と共に全てを告白した。ミンシャは班の団結力に訴えた。
「彼女の事情はこの班だけの秘密よ。女の友情にかけて誓うわ!レブラント君の事情も分かったなら黙ってること!男のプライドは厄介だからね」
アラートがオイルの瓶を片付けながら言った。
「班長は5人兄弟の真ん中で育ったんだよ。マヤちゃん、聞きたいかい。東メイス領国オリール屋敷のデライラ5兄弟といえばね」
オーレリが突っ込んだ。
「あら、ミンシャは兄弟でカウントされてるの」
班長は笑みを浮かべ、しなやかにポーズを取った。
「女の内側にも男はいるのよ。逆もまた然りだわ。マヤちゃン、安心しな。体がどうあろうと、あンたは女だよ」




