第2章 男子V班とカレナード
「オルシニバレ市だ。カレナード・レブラント。もうすぐ17歳だ」
「ミシコと同郷か。じゃあ、顔見知りだな」
V班の面々が自己紹介に来た。栗色の髪の少年はアレク・クロボックと名乗った。大きな手で握手を求めた。
痩せぎすで垂れ目の少年は明らかに年下だ。
「美人が来てくれた。俺はシャル・ブロス。13歳の唯美主義者だ」
「よろしく、シャル・ブロス」
カレナードは挨拶を返したが、美人と言われ冷水を浴びた気がした。
シャルより年下の少年がむくれていた。
「シャルは初対面なのに失礼だ。僕はヤルヴィ・アダンです。ようこそ」
唯美主義者は平気で割り込んだ。
「ヤルは歴代最年少の訓練生で9歳さ。ママンのスカートが恋しいお年頃、カレナード君はママンの香りがしそうじゃないか」
「シャルは本当に失礼だ。人をからかってばかりでさ」
そこにミシコ班長が戻り、他班の連中が覗き込んだ。班長はつい叫んでいた。
「なぜお前がここに!アナザーアメリカンが!」
周囲がざわめいた。キリアンが食ってかかった。
「そんなわけあるか。編入は屋敷出身でもそれなりの資格が要る」
「彼は間違いなくシェナンディ精密工業社のカレナード・レブラントだ」
カレナードは胸をはり、相手を見返した。
「間違いなくそうだ」
「お前の禁忌破りで僕は入隊式に遅れかけたんだ。いつ乗船した」
「7日前だ。ミシコ・カレント、あの時は迷惑をかけて悪かった」
アレクが言った。
「7日前と言えば、船底で玄街と銃撃戦があった日だな」
キリアンの口調がきつくなった。
「こいつは玄街と関係があるかもな。間諜じゃないのか」
皆がギクッとした。カレナードは機を逃さなかった。
「僕の話も聞いてくれ。僕は玄街首領に妙なコードをかけられた。解消にはガーランドの技術が不可欠で、僕は施療部の検体でもあるんだ」
別班の長身の青年が名乗りを上げた。
「俺は男子S班班長ナサール・エスツェット。乗船のいきさつを聞かせてくれ」
「僕は女王に全てを捧げる禁忌と引き換えにした。最大の禁忌破りだ」
寄っていたミシコの眉根が開いた。
「じゃあ、お前は吊られたのか」
カレナードは頷いた。眼に修羅場をくぐった迫力があった。新参の群れから称賛と驚嘆の口笛が飛んだ。
カレナードは刺青を晒した。
「これが禁忌破りの代償だ。僕は女王が死ねと言えば死ぬだろう。ところで実習服の着方を教えてくれないか。履修科目についても」
ナサールとシャルが「よしキタ!」「何でも聞いてくれ!」と張り切った。それをキリアンが遮った。
「肝心なことが抜けている。玄街コードはお前に何をもたらした」
「えっ」
カレナードは突然の葛藤に陥った。彼らに事実を告げるか否か。彼は己の弱さに直面した。体の違和感とリリィ・ティンの診断が彼を臆病にしていた。キリアンはますます荒っぽくなった。
「どうした。話せよ、元社員」
アレクとシャルが確認したいと前置きし、感染病の類かと尋ねた。
「個人に影響するコードだから何も心配ない。僕の問題だ」
キリアンは腕組みし、カレナードに詰め寄った。
「個人的な問題なら尚更明らかにすべきだ。僕たちはチームを組む。ナノマシン制御実習も飛行艇演習もチームワークは必須だ。得体のしれないアナザーアメリカンがいてやれるものか。爆弾抱えたままの奴はごめんこうむる!」
キリアンの態度にカレナードの直感が反応し、即座にやり返した。
「君こそ爆弾抱えてるように見えるよな、キリアン・レー!」
キリアンは怒りもあらわに殴りかかろうとした。
「止めるんだ、キリアン!」
ミシコはいつにないキリアンの剣幕をいぶかりながら、彼を抑えた。
「棟内の暴力沙汰は全員夕食抜きだぞ。シャルとヤルヴィは彼に制服と科目の説明だ。キリアンとアレクは明日の実習準備を手伝え。カレナード、お前が女王の紋章を持っていようと特別扱いなしだぞ」
「ああ、望むところだ」
カレナードの返事を、キリアンは勝手に自分への挑戦と取った。
皆が出ていくと、ヤルヴィはカレナードに尊敬の眼差しを向けた。
「制服は式や行事の時に使うんだ。この先だと春分の女王臨死式だね。普段は実習服を着るんだ。僕が着てみせるからやってみて」




