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第1章 新参訓練生編入

 当事者の二人を蚊帳の外にして、研究者同士の議論が飛び交った。カレナードは同じく蚊帳の外になっている艦長に問いかけた。女王の紋章人がこの先どうなるのか、カレナードは予測出来なかった。意外なことに艦長も同様だった。

「前例がないのでね。我々も君の処遇を考えているところだよ。はっきりしているのは、君が紋章人でガーランドを降りられないことだ」

「ガーランドに居るなら、ガーランドにふさわしくなるしかないでしょう」

「一から学びなさい。新参訓練生編入を手配できる。マヤルカ嬢も勉強を続けたいそうだ」

「訓練生?」

艦長は言った。

「各領国から精鋭を目指す訓練生がたくさん来ている。ヴィザーツ屋敷で志願して選ばれた者の空の学校だ。君はアナザーアメリカンで、女王の紋章を持ち、女性の体という事情があれど十六歳の若さだ。新しい友人を得たまえ。それが近道だよ」

 カレナードの心が動いた。いつの日か自分の意志で生きられなくなろうとも、ヴィザーツになるための時間と場所が用意されたのだ。

「君は例の奨学生合格証で人文地史と幾何学が奨励科目になっている。他にも芝居やダンスが出来るそうだな。歌はどうだ」

「音痴ではありませんが、歌うのは苦手です」

「なぜだね」

「どうも歌だけは照れくさくて」

艦長はおかしそうに彼を見た。

「玄街首領グウィネス・ロゥが君にヴィザーツの素質を認めて誘ったのは名誉なことだ。それを磨いて才能にしたまえ」

「彼女は僕の母に恨みがあるようでした。なのに、玄街ヴィザーツに加えようとした。腑に落ちません」

「彼女の言動は我々をも翻弄することがある。大胆で油断ならない」

「エーリフ艦長、ヴィザーツの素質とは何ですか」

「ふむ、アナザーアメリカの禁忌に誠実であれとでも言っておこうか」

「僕は何度も禁忌を破った人間です」

「君は怖いもの知らずな若者には見えないがね」

 研究者の輪から出てきたリリィにマヤルカが食ってかかっていた。

「二年も待つのですか!」

「マヤルカさん、ひとつ手順を間違えば、復元は永久に出来なません。それでもよろしいか!」

 リリィの返事にマヤルカは唇を噛んだ。カレナードが訊いた。

「DNAって、何です」

「お前たちの理解の範疇を超えたものよ。死ぬほど勉強なさい」

「僕はアレニア奨学生の資格を持っています。理解してみせます」

「理解したところでお前はどうすることも出来ない。話は終わりよ、出ていきなさい」

 廊下でワイズ・フールが待っていた。彼は気を利かせて、サロンへ戻る途中で庭園に誘った。天蓋下で冬薔薇が咲いていた。道化は蕾を指ではじいた。

「小生、聞く気はなかったのですが聞こえてしまったものはしょうがない。お二人が男女に女男とは。こりゃ、おったまげ!」

マヤルカはワイズ・フールを睨んだ。

「道化さんは地獄耳ね。どうか言い触らさないでください。ところで、ドクトル・リリィはどういう人なの」

「悪気はござらぬですよ、マヤルカ嬢。あれはヴィザーツの中でもサージ・ウォールのように特別お高いプライドがさせるものですから」

 カレナードはつい愚痴を吐いた。

「彼女は僕たちを人間扱いしないんだ」

道化は「偏見はないにこしたことはありませんが、どこの世にもあるもので」と肩をすくめ、トンボ返りをしてみせた。

「お二人は可愛くていらっしゃる。強い芯が要ることになりますよ、どこで生きるにしてもね。小生、マリラさまの代わりに時に様子を伺いましょう」

 その日のうちにカレナードは艦長から新参訓練生編入許可証を渡された。それを見たマヤルカは、いつまでも女王さまの客分ではいられないと叫んだ。こうして彼女も新参訓練生に加わった。

「さすがはマヤルカ・シェナンディです」

「当然よ、カレナード。私は医師になるわ。ドクトル・リリィより凄腕の医師に。いつかオルシニバレへ帰る時のために」

 サロンのベッドを引払い、二人は新参訓練生棟へ移った。故郷を追放されて53日、戦闘の中を乗船してから7日目だった。


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