第1章 オーサ市大公会堂前
ガーランドは冬空を裂くように高原の牧草地に停泊していた。二人は素速く荷台を降りた。
「トラックは100台以上、搬入に時間がかかるわ。カレナード、ガーランドに乗れたとして、問答無用で殺されないわよね」
「ガーランド・ヴィザーツは玄街の情報が欲しいはず。僕たちの体にある玄街の情報、コードと呼ばれるものを調べるでしょう」
容易くない前途と分かっていたが、想像以上だった。船底に沿って高台を進み、見覚えのある昇降口を見つけた。二人は外側の開閉装置を確かめ、完了祭でガーランド警備兵がやったように操ってみたが、手に余る難しさだ。
「両手を上げろ。厄介なアナザーアメリカン!」
4人の警備兵が銃口を向けた。
「度胸だめしか。今すぐ帰るなら咎めないが、これ以上は禁忌破りとみなすぞ」
マヤルカが懇願した。
「私たちを助けてください。ガーランドの魔法なら呪いが解けます」
「魔法!勘弁してくれ。必ずいるんだ、こう言うアナザーアメリカンが!」
吐き捨てた警備兵にカレナードは訴えた。
「あなたがたなら玄街コードを解けるでしょう」
ヴィザーツは互いに顔を見合わせた。隊長らしき男が訊いた。
「玄街に襲われたというのか」
「そうです。僕たちは体を変えられました。僕の体は女に、彼女の体は男に」
笑い声が上がった。
「笑いごとじゃないんです。そうだ、僕の体を見て下さい」
カレナードはマントを脱ごうとした。警備兵が怒鳴った。
「女が男の格好しただけだろ!」
「僕は男です。身分証明書と照らし合わせれば」
「ヤッカ隊長、追い払いましょう。この女は狂ってますよ」
マヤルカは必死で抵抗した。
「玄街が絡んでるのよ。話を聞いて!」
ヤッカ隊長はきっぱり言った。
「こんな荒唐無稽は初めてだ。戻れ。さもないと体が欠けるぞ」
彼は銃を構えた。手足の一本は吹き飛びそうな大きさだ。
カレナードはマヤルカを後ろへ押しながら続けた。
「嘘は言っていません。元の体を取り戻したいだけです。一生がかかっているのです」
「帰れ、小僧!」
銃からカチリと音がした。
カレナードはマヤルカを引っ張って逃げた。
マヤルカは戻りながらトラックの群れを見ていた。数は少なくなっていた。
「チャンスはあるわ、野菜と一緒にガーランドに行きましょう」
二人は最後のトラックによじ登り、大きなコンテナのほうれん草に潜り込んだ。すぐにコンテナは搬入用のゴンドラに移った。
警備兵がチェックを入れた。
「この箱だけ荷が乱れてるぞ」
外れのヴィザーツがコンテナの前に来た。
「年内最後の出荷で農家も儂らも大慌てで。ばらけてないはずなんだが」
はみ出た野菜を掻き集めた拍子にカレナードのマントが見つかった。
ヤッカは懲罰用の鞭を握った。
「君は大人しく帰るべきだった。二度と来るんじゃないぞ」
彼はカレナードを鞭で10回打った。マヤルカは1回だけだった。
カレナードは諦めなかった。
カローニャ領国オーサ市の調停開始式で、彼は警備隊と同じ色の服を着て公会堂前に並んだ飛行艇に向かって歩いた。女王が大公会堂に入る間、群衆は大歓声を上げ、彼が胸を張って公会堂前の広場を横切る姿など見ていない。
彼はヤッカの隣に立った「伝令であります!」
ヤッカが口を開くまで一瞬の間があった。
「お前は!」
「覚えていて下さいましたか、ヤッカ隊長。カレナード・レブラントです。今日はお伝えするだけです。すぐに帰ります」
ヤッカは睨んだ。
「お前を逮捕し、オーサ市に引き渡しもできるのだぞ。今度は鞭打ちで済むと思うな」
カレナードは凄む隊長を見据えた。
「先日の言葉が真実である証拠を見せたらすぐに帰ります。確認していただきたいだけです。隊長はこれだけの市民の前で部下を逮捕させないでしょう」
「ピード・パスリ、こちらへ!」
ヤッカは少年警備兵を呼び、命じた。
「こいつの横に立て。静かにしていられないようなら撃て」